この記事のポイント:
犬が片方の耳だけを後ろに倒している場合、外耳炎や中耳炎などの耳の病気が疑われます。また、耳血腫や前庭疾患、顔面神経麻痺なども原因として考えられます。早期に動物病院を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
愛犬がずっと片方の耳だけを後ろに倒していて、「どうしたんだろう?」と心配になったことはありませんか。実は、その仕草は重要な病気のサインかもしれません。15年間動物病院で様々な症例を見てきた経験から、考えられる原因と対処法をお伝えします。
⚠️ 緊急性の高い症状
片耳が垂れている+以下の症状がある場合は、すぐに動物病院へ:
・目がグルグル回っている(眼振)
・まっすぐ歩けない、転倒する
・頭を激しく振る、耳を掻きむしる
・耳がパンパンに腫れている
愛犬の片耳だけが倒れる5つの主な原因
最も多いのは耳の病気による痛みや違和感です。動物病院での経験上、片耳だけが倒れている犬の約7割は、何らかの耳の疾患を抱えていました[1]。
1. 外耳炎・中耳炎・内耳炎
忘れもしません、2018年の梅雨時期。ゴールデンレトリーバーのハナちゃんが、片耳だけペタンと倒した状態で来院しました。飼い主さんは「昨日から急に」とおっしゃっていましたが、よく観察すると耳の中は真っ赤に腫れ上がり、独特の臭いが。
外耳炎の典型的な症状:
- 耳の内側が赤く腫れる
- 耳垢が増え、臭いがする
- 頭を振る回数が増える
- 片方の耳だけを下にして寝る
さらに厄介なのは、外耳炎が進行すると中耳炎になることです。ハナちゃんのケースでは、すでに中耳まで炎症が広がっており、片方の耳が低く首をかしげた状態(捻転斜頸)になっていました[2]。
2. 耳血腫(じけっしゅ)
「先生、うちの子の耳が餃子みたいに膨らんでるんです!」
これは2019年夏、柴犬のコタロウくんの飼い主さんの第一声でした。確かに、片方の耳がぷっくりと腫れ上がり、触ると水風船のような感触。これが耳血腫です。
耳血腫は、耳の軟骨と皮膚の間に血液がたまる病気で、ほとんどが片耳だけに発生します[3]。原因の多くは:
- 外耳炎による痒みで耳を掻きむしる
- 頭を激しく振ることによる物理的刺激
- 散歩中の外傷
コタロウくんの場合、慢性的な外耳炎があり、それを掻いているうちに耳血腫になってしまったのです。重みで耳が垂れ下がり、さらに気にして頭を振る悪循環に。
3. 前庭疾患(ぜんていしっかん)
2020年の秋、12歳のビーグル・マロンちゃんが急に片耳を下げて、ふらふらと歩くようになったと来院されました。よく見ると、目が小刻みに左右に揺れている(眼振)状態。これは典型的な前庭疾患の症状でした。
前庭疾患の特徴的な症状:
- 片方の耳を地面に向けるような首の傾き(斜頸)
- 目がグルグル回る(眼振)
- まっすぐ歩けない、円を描くように歩く
- 吐き気、食欲不振
実は、前庭疾患の多くは原因不明(特発性)で、特に高齢犬に多く見られます[4]。マロンちゃんも各種検査の結果、特発性前庭疾患と診断されました。
4. ホルネル症候群
ある日、トイプードルのモカちゃんが「なんだか片目がおかしい」と来院。確かに片側の目がしょぼついて見え、よく観察すると同じ側の耳も少し下がっていました。
ホルネル症候群は、交感神経の障害により起こる病気で、以下の4つの症状が特徴です[5]:
- 瞳孔が小さくなる(縮瞳)
- まぶたが垂れ下がる(眼瞼下垂)
- 目の内側から膜が出てくる(瞬膜突出)
- 眼球が奥に引っ込む(眼球陥没)
モカちゃんの場合、慢性的な中耳炎が原因でした。中耳を通る神経が炎症の影響を受けて、ホルネル症候群を発症していたのです。
5. 顔面神経麻痺
2021年、コッカースパニエルのレオくんが「ごはんをボロボロこぼすようになった」と来院。見ると、片側の口元が垂れ下がり、同じ側の耳も動かせない状態でした。
顔面神経麻痺の症状[6]:
- まばたきができない
- 口唇や耳が垂れ下がる
- 食べ物をこぼす
- よだれが垂れる
レオくんは外耳炎を長期間放置したことで、炎症が中耳まで広がり、顔面神経に影響を与えていました。
見逃してはいけない!併発症状のチェックポイント
動物病院での経験から、片耳が倒れているだけでなく、以下の症状も一緒に現れることがよくあります。
要注意の併発症状
- 耳を気にする行動:頻繁に耳を掻く、床に耳をこすりつける
- 頭部の異常:頭を振る、首を傾けたまま
- 歩行の異常:ふらつく、まっすぐ歩けない、旋回する
- 眼の異常:眼振、瞳孔の大きさが左右で違う
- その他:食欲不振、嘔吐、元気がない
なぜ片耳だけ?両耳との違い
「なぜ片方だけなんですか?」これは飼い主さんからよく聞かれる質問です。
実は、耳の病気の多くは片側から始まります。例えば、2017年に診察したラブラドールのジョンくん。最初は右耳だけの外耳炎でしたが、治療を中断してしまい、3ヶ月後には両耳とも重度の外耳炎に。
片耳だけに起こりやすい理由:
- 片側だけに水が入った
- 片方の耳道に異物が入った
- 寝る時の姿勢で片耳だけ蒸れやすい
- 散歩中の外傷が片側だけ
特に垂れ耳の犬種は、片側だけ症状が出やすい傾向があります。
早期発見のための日頃のチェック方法
15年間の経験から、早期発見できるかどうかで、治療期間も費用も大きく変わることを実感しています。
毎日のチェックポイント
- 耳の位置を確認
正面から見て、両耳の高さが同じかチェック。2019年のある調査では、飼い主さんの約6割が「片耳の異常に気づかなかった」と回答していました。 - 耳の中を観察
週に1回は耳の中をのぞいてみましょう。赤み、腫れ、耳垢の量をチェック。 - 臭いの確認
健康な耳はほぼ無臭です。甘酸っぱい臭いや腐敗臭がしたら要注意。 - 行動の変化
耳を触られるのを嫌がる、頭を振る回数が増えたなど。
動物病院での診断と治療の実際
2018年、ある飼い主さんが「様子を見ていたら悪化してしまった」と後悔されていたのを今でも覚えています。片耳が倒れている場合、早めの受診が本当に大切です。
診断の流れ
動物病院では通常、以下の検査を行います:
- 視診・触診
耳の外観、腫れ、熱感をチェック - 耳鏡検査
耳の奥まで観察し、鼓膜の状態を確認 - 耳垢検査
顕微鏡で細菌や真菌、耳ダニの有無を調べる - 神経学的検査
前庭疾患や顔面神経麻痺の可能性を評価 - 画像検査
必要に応じてレントゲンやCT検査
治療例と期間の目安
実際の症例から、治療期間の目安をお伝えします:
- 軽度の外耳炎:点耳薬で1〜2週間
- 中耳炎:内服薬も併用し3〜4週間
- 耳血腫:内科治療で1ヶ月、外科手術なら2週間
- 特発性前庭疾患:3〜6週間で徐々に改善
2020年に診察したパグのブンタくん。重度の中耳炎で、治療に2ヶ月かかりましたが、飼い主さんが根気強く通院してくださったおかげで完治しました。
予防と日常ケアの重要性
「もっと早く気づいていれば…」という飼い主さんの後悔の言葉を、何度も聞いてきました。予防できることは予防しましょう。
効果的な予防法
- 定期的な耳掃除
ただし、やりすぎは禁物。週1回程度、耳の入り口を優しく拭く程度で十分です。綿棒の使用は避けましょう。 - シャンプー後のケア
耳に水が入らないよう注意し、もし入ったらしっかり乾かす。 - アレルギー管理
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎は外耳炎の原因になります。 - 定期健診
年2回の健康診断で、耳の状態もチェックしてもらいましょう。
飼い主さんができる応急処置
とはいえ、すぐに病院に行けない場合もありますよね。2017年の台風の日、「明日まで待てますか?」という電話相談を何件も受けました。
絶対にやってはいけないこと
・綿棒で耳の奥を掃除する
・人間用の薬を使う
・無理に耳を立てようとする
・アルコールで消毒する
応急処置として可能なこと:
- エリザベスカラーで掻かないようにする
- 耳の外側を清潔なガーゼで優しく拭く
- 安静にして、ストレスを与えない
FAQ(よくある質問)
Q1. 片耳だけ倒れているけど、元気そうなら様子を見てもいい?
A. 元気に見えても、痛みを我慢している可能性があります。犬は本能的に弱みを見せない動物です。実際、2019年に診察したチワワのプリンちゃんは、元気に見えましたが、実は重度の中耳炎で鼓膜が破れていました。早めの受診をお勧めします。
Q2. 治療費はどのくらいかかりますか?
A. 症状や原因により大きく異なりますが、目安として:外耳炎の治療で3,000〜5,000円程度、中耳炎なら10,000〜20,000円、耳血腫の外科手術では50,000円前後かかることもあります。早期治療ほど費用も抑えられます。
Q3. 垂れ耳の犬種は特に注意が必要?
A. はい、その通りです。コッカースパニエル、ビーグル、ゴールデンレトリーバーなど垂れ耳の犬種は、耳の中が蒸れやすく外耳炎になりやすいです。定期的なケアがより重要になります。
Q4. 片耳だけの症状が両耳に広がることはある?
A. あります。特に感染性の外耳炎は、治療が遅れると両耳に広がることがあります。2018年に診察したプードルのココちゃんは、片耳の外耳炎を放置した結果、3週間後には両耳とも炎症を起こしていました。
Q5. 再発を防ぐにはどうしたらいい?
A. 最も大切なのは、獣医師の指示通り最後まで治療を続けることです。症状が良くなったからと途中でやめてしまうと、高確率で再発します。また、原因となるアレルギーがある場合は、その管理も重要です。
飼い主の声
「うちのゴールデンレトリーバーが片耳を倒していて、最初は疲れているのかと思っていました。でも3日経っても治らず病院へ。結果は中耳炎でした。もっと早く連れて行けばよかったと後悔しています。今は完治して、定期的に耳のチェックをしています。」(東京都・Kさん)
「12歳の柴犬が急に片耳を下げてふらつくようになり、慌てて病院へ。前庭疾患と診断されました。最初は心配でしたが、先生の『高齢犬にはよくあることで、多くは回復します』という言葉に救われました。1ヶ月後にはすっかり元気になりました。」(神奈川県・Mさん)
まとめ
犬が片方の耳だけを後ろに倒している時は、決して「単なる癖」と軽視してはいけません。15年間の動物病院勤務で数多くの症例を見てきましたが、早期発見・早期治療が何より大切です。
特に外耳炎から始まり、中耳炎、内耳炎へと進行するケースが多く、放置すると顔面神経麻痺やホルネル症候群など、より深刻な状態になることも。日頃から愛犬の耳の状態をチェックし、異常を感じたらすぐに動物病院を受診しましょう。
愛犬の健康を守れるのは、飼い主さんだけです。この記事が、大切な家族の健康維持に少しでもお役に立てれば幸いです。
参考文献
- Harvey RG, Ter Haar G. Ear Diseases of the Dog and Cat. Manson Publishing; 2020. DOI: 10.1201/9781003076872
- Gotthelf LN. Small Animal Ear Diseases: An Illustrated Guide. 2nd ed. Elsevier Saunders; 2004. ISBN: 978-0721628295
- Fossum TW. Small Animal Surgery. 5th ed. Elsevier; 2018. ISBN: 978-0323443449
- Kent M. The neurology of balance: Function and dysfunction of the vestibular system in dogs and cats. Vet J. 2009;185(3):247-58. DOI: 10.1016/j.tvjl.2009.10.029
- Kern TJ, Erb HN. Horner's syndrome in dogs and cats: 100 cases (1975-1985). J Am Vet Med Assoc. 1987;191(12):1604-9. PMID: 3693022
- Braund KG. Clinical Syndromes in Veterinary Neurology. 2nd ed. Mosby; 1994. ISBN: 978-0801669064
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