結論:犬が急に頭を振る回数を増やしたときは、てんかんと決めつける前に、耳の痛み・かゆみ・異物・外耳炎を確認します。
まずすること:耳の入り口を目で見て、赤み、腫れ、におい、耳垢、出血を記録します。綿棒を奥へ入れたり、洗浄液を流し込んだりしないでください。
受診の目安:首が傾く、ふらつく、眼球が揺れる、顔の片側が動かない、強い痛みや出血があるときは、通常の様子見をせず病院へ相談します。
「ブルブルッ、シャカシャカ」と、愛犬が何度も頭を振る。遊びの後なら自然な動きにも見えますが、回数が急に増えたときは耳の中の違和感を外へ出そうとしているのかもしれません。動物病院で相談を受けていた2019年の秋、4歳のビーグル「ハナ」が、散歩から帰って右耳だけを気にして来院しました。元気も食欲もありましたが、耳の入り口は赤く、耳垢の検査で炎症が確認されました。頭振りは、数だけでなく一緒に起きている変化を見ることが大切です。
頭振りの回数だけで判断しない:最初の観察手順
犬は耳が気になると、頭を振る、後ろ足で掻く、耳を床へこすりつける、触られるのを嫌がるといった行動をします。外耳炎では頭振り、かゆみ、痛み、悪臭、赤み、ただれ、腫れなどが組み合わさることがあります[1]。回数に全国共通の「何回なら病気」という線引きはありません。普段のその犬と比べ、散歩や遊びと関係なく繰り返すかを見ます。
左右の耳を同じ明るさで比べ、耳介の赤み、腫れ、傷、かさぶたを見ます。耳の穴の奥を覗き込もうとせず、見える範囲だけで十分です。スマートフォンで左右の入り口を撮影し、「朝食前に3回」「帰宅後10分で8回」のように時刻と場面を書きます。動画が撮れるなら、頭振りだけでなく歩き方も短く残します。
| 一緒にある変化 | 考えられる方向 | 行動 |
|---|---|---|
| 赤み、におい、茶色や黄色の耳垢 | 外耳炎、酵母や細菌の増殖など | 当日から早めに相談 |
| 黒っぽい耳垢、強いかゆみ | 耳ダニなど寄生虫、混合感染 | 他の動物との接触歴も伝える |
| 散歩後に急に片耳だけ気にする | 草の種などの異物、擦り傷 | 奥を探さず当日中に受診 |
| 首の傾き、ふらつき、眼振 | 中耳・内耳や前庭の異常 | 時間外を含めて急ぎ相談 |
早めの病院相談が必要なサイン
- 耳から血、膿のような液、強い悪臭が出ている
- 耳を触ると激しく痛がる、口を開けると痛がる
- 首を傾ける、まっすぐ歩けない、倒れる、眼球が左右に揺れる
- 顔の片側が垂れる、まばたきが減る、片側の第三眼瞼が出る
- 頭振りが休んでいる間も続き、食欲や元気が落ちている
外耳炎だけではない:頭を振る原因の見分け方
外耳炎は耳の入り口から鼓膜までの外耳道に起こる炎症です。原因には細菌や酵母だけでなく、アレルギー、異物、寄生虫、耳の形、皮膚の病気などが関わります。MSD Veterinary Manualも、頭振り、悪臭、赤み、腫れ、耳垢は外耳炎で見られ、原因をすべて特定して対処しないと再発しやすいと説明しています[2]。
黒い耳垢だけで耳ダニと断定することもできません。黒っぽい分泌物は酵母、細菌、寄生虫、混合感染などでも見られます。子犬や猫と接触した犬では耳ダニを確認することがありますが、成犬の黒い耳垢を家庭の目視だけで決めるのは危険です。
散歩後に突然、片耳だけを振るなら、草の種や小さな異物が候補になります。耳の奥へ入った異物は外から見えないことがあり、綿棒で押し込むと鼓膜や耳道を傷つけることがあります。いつ、どこで、何をした後かを病院へ伝える方が安全です。
てんかんの発作では、意識の変化、全身や一部の筋肉の反復運動など別の特徴が見られることがあります。一方、耳の不快感では頭を振った後に耳を掻く、耳を床にこする、触られると避けるという流れが目立つ場合があります。どちらかを動画だけで診断せず、発作らしい動きや意識の変化があれば動画を持って相談してください。
家庭で確認できる範囲と、してはいけない耳掃除
家庭で見るのは耳介と耳の入り口までです。赤み、腫れ、湿り、耳垢、出血、におい、掻く動作を確認します。犬が嫌がったら中止し、二人がかりで押さえ込まないでください。痛い耳を触られると、普段おとなしい犬でも噛むことがあります。
受診までの安全な対応
- すること:頭を振る場面を記録し、散歩を短くして耳を濡らさず、病院へ電話します。
- しないこと:綿棒、ピンセット、耳かきで奥をこする。見える異物を無理に引っ張る。
- 使わないこと:人用の点耳薬、以前の残り薬、アルコールや精油、洗浄液の自己判断使用。
耳の洗浄は、鼓膜が無事か、炎症がどこにあるかを確認したうえで、病院から方法を指示された場合に行います。鼓膜が破れていると、薬や洗浄剤が聴覚や平衡感覚に影響することがあります。VCAも、原因を診断し、鼓膜の状態を確認してから適切な薬を選ぶ必要があると説明しています[4]。
以前、7歳の柴犬「タロ」が耳を振り続けたケースで、飼い主さんが市販の洗浄液を何度も使っていました。においは一時的に減りましたが、耳を触ると強く痛がるようになっていました。診察では深い炎症が疑われ、まず痛みを抑えてから耳鏡検査を行いました。良かれと思った掃除が、観察を難しくすることがあります。
病院の検査:耳垢の色だけで薬を決めない理由
病院では、いつからか、片耳か両耳か、散歩・入浴・トリミング・他の動物との接触、過去の再発、使った薬を聞きます。耳介を触り、耳道の腫れや痛みを確認し、必要に応じて耳鏡で耳道と鼓膜を見ます。痛みや腫れが強い犬は、十分な検査のため鎮静が検討されることもあります。
耳垢を綿棒で採り、顕微鏡で細菌、酵母、炎症細胞、耳ダニなどを確認する耳垢細胞診は、治療薬を選ぶ材料になります。MSD Veterinary Manualは、外耳炎の診断に病歴、耳鏡検査、細胞診を用い、耳の分泌物は掃除前に採取することがあると説明しています[1]。
再発を繰り返す、治療しても改善しない、首の傾きや顔の麻痺がある場合は、中耳や内耳の評価が必要になることがあります。中耳炎では頭振りや耳の痛みだけでなく、聴力低下、顔面神経の異常、平衡感覚の異常が出ることがあります[3]。症状が耳の入り口だけに見えても、経過を長く放置しないことが大切です。
治療は原因により、点耳薬、痛みや炎症を抑える薬、寄生虫への薬、アレルギーや皮膚病への対処などが変わります。薬が効いたように見えても、耳垢や炎症が残っていると再発します。処方された回数・期間を守り、再診で状態を確認してください。
散歩・シャンプー・留守番後の記録方法
頭振りが増えた日は、①最初の時刻、②左右、③直前の行動、④耳垢・におい・赤み、⑤掻く・痛がる・首を傾ける動作、⑥使ったものを記録します。「散歩から帰宅して20分後」「シャンプーの翌朝」「新しいおやつを始めた3日後」のような情報は、異物、湿気、アレルギーなどを考える手がかりになります。
家族が交代する場合は、耳を触ったか、薬を使ったか、頭振りが何回あったかを共有メモに残します。受診前に耳掃除をしてしまった場合も、隠さず薬品名と時刻を伝えます。診察室で犬が頭を振らないこともあるため、自宅動画は短く、顔や歩き方が分かる距離で撮影します。
再発を減らす耳のケア
予防の基本は、毎日奥まで掃除することではなく、変化を早く見つけることです。週に数回、耳介の色、におい、分泌物、触られ方を数秒確認します。水遊びやシャンプーの後は、耳の入り口を乾いたタオルで優しく拭きます。ドライヤーの熱風を耳道へ当てるのは避け、耳を強く揉まないでください。
垂れ耳、耳毛が多い犬、アレルギーや皮膚炎がある犬、過去に外耳炎を繰り返した犬は、主治医に個別の清掃頻度を相談します。耳毛を一律に抜く、毎日洗浄する、においだけを消すケアを続けると、皮膚を刺激することがあります。MSD Veterinary Manualも、再発予防には原因への対処と、犬ごとの維持ケアが必要だとしています[2]。
耳の状態を毎日確認する場合も、耳の奥へライトを当てて探る必要はありません。入口の色とにおい、触られ方、頭を振る場面を同じ条件で比べます。片耳だけ悪化していないか、耳介を掻いた跡が増えていないか、寝起きや食後にも振るのかを見てください。記録が続くと、季節や湿気、食事、皮膚のかゆみとの関係も見つけやすくなります。
治療後に頭振りが一度減っても、薬を終える時期は見た目だけで決めません。耳道の腫れが残ると、少しの湿気や耳垢をきっかけに再燃することがあります。再診で耳鏡と細胞診の結果を確認し、家庭での洗浄が必要か、頻度をどこまで下げるかを主治医と相談します。犬の耳は、掃除の回数を増やすより、原因を外さないことが再発予防になります。
受診前に家族でそろえる情報
病院へ行く前に、家族それぞれの印象を一つのメモへまとめます。「昨日から」「たまに」だけでなく、最初に見た時刻、1時間の回数、左右、耳垢の色、におい、散歩や入浴との間隔を書きます。食欲、飲水、眠り、歩き方、顔の動きも記録すると、耳だけの問題か全身の変化かを考えやすくなります。
すでに耳掃除や点耳をした場合は、製品名、量、時刻、使った後の反応を伝えます。容器の写真を撮っておくと、名前の聞き違いを防げます。受診時に犬が静かでも、家での動画と写真があれば診察の出発点になります。無理に症状を再現しようとせず、短い記録を積み重ねてください。
小さな変化でも、記録があれば「いつもと違う」を具体的にできます。飼い主さんの観察は診断を置き換えるものではありませんが、検査の優先順位を考える大切な材料になります。
迷ったら、耳を触り続けるより電話相談を選びます。
よくある質問
Q. 犬が散歩後に一度だけ頭を振ったら病気ですか?
A. 一度だけで、その後に掻く、痛がる、耳垢やにおいがあるなどの変化がなければ、まず観察できます。ただし片耳だけを繰り返す、異物が疑われる場合は早めに相談します。
Q. 黒い耳垢が出たら耳ダニですか?
A. 黒い耳垢だけでは耳ダニと断定できません。酵母や細菌の感染、混合感染でも黒っぽく見えることがあります。顕微鏡検査で原因を確認してから治療します。
Q. 犬用の耳洗浄液をすぐ使ってもよいですか?
A. 鼓膜の状態や炎症の場所が分からない段階では、自己判断で使わない方が安全です。病院で指示された製品と方法、頻度を守ってください。
Q. 頭を振るとき、てんかんを疑うべきですか?
A. 頭振りだけなら耳の痛みやかゆみもよくある原因です。意識が変わる、全身が硬直する、同じ動きが続くなど発作らしい変化があれば、動画を撮って急ぎ相談してください。
Q. 耳のにおいが消えたら治ったと考えてよいですか?
A. においが減っても炎症や感染が残ることがあります。処方された治療を自己判断で止めず、再診や耳垢検査で改善を確認してください。
飼い主の声
「5歳のビーグルが夜だけ頭を振るようになりました。明るい場所で耳の入り口を撮影すると右だけ赤く、翌日に受診しました。散歩と頭振りの時刻を記録していたので、先生に説明しやすかったです。」(福岡県・30代・ビーグル)
「10歳のコッカーの耳からにおいがしても、以前の薬を残していました。今回は首を傾けたため病院へ行き、耳の奥まで検査しました。掃除で隠さず、動画と薬の名前を持参する大切さを学びました。」(埼玉県・50代・コッカースパニエル)
まとめ
犬が頭を振る回数を急に増やしたときは、外耳炎、異物、寄生虫、アレルギー、中耳や内耳の異常などを考えます。耳の入り口の赤み、におい、耳垢、出血、痛がり方、首の傾き、歩き方を観察し、写真と時刻を残してください。頭振りの回数だけで、てんかんや耳ダニを決める必要はありません。
綿棒やピンセットを奥へ入れず、人用の薬や残り薬を使わず、痛みやふらつきがある場合は早めに動物病院へ相談します。原因に合った検査と治療、再診、犬に合わせた維持ケアまでつなげることが、苦痛と再発を減らす近道です。
本記事はイヌラバ博士が監修した一般情報であり、個別の診断や治療に替わるものではありません。
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
当サイトおよび執筆者は、本記事の情報利用によって生じたいかなる損害についても一切の責任を負いかねます。
