梅雨の外耳炎リスク:湿度80%を超える環境で犬の外耳炎発症率が上昇
耳をかく行動:外耳炎の初期症状として最も多く見られるサイン
好発犬種:垂れ耳の犬種は通気性が悪く、リスクが1.76倍高い
「最近、うちの子がしきりに耳をかいているんです」─そんな飼い主さんの声が増えるのが、じめじめとした梅雨の季節。動物病院で15年間、数え切れないほどの外耳炎を診てきた私にとって、梅雨は特に気を張る時期でした。
外耳炎の発症と湿度には密接な関係があります。実際に、2019年のカナダ獣医学ジャーナルに掲載された研究では、環境の温度と湿度の変化が外耳炎の素因になることが報告されています[1]。とはいえ、適切な対処をすれば予防は十分可能です。本記事では、梅雨時期特有の外耳炎リスクと、愛犬を守るための実践的な方法をお伝えします。
じめじめした環境が招く耳の中の異変
2016年の午後、診察室に入ってきたゴールデンレトリーバーのルナちゃん(仮名・5歳)。飼い主さんは「昨日から急に頭を振るようになって」と心配そうでした。耳の中を覗くと、赤く腫れ上がり、独特の酸っぱいような臭いが…。
梅雨時期の東京では、湿度が平均80%前後まで上昇します。この高湿度環境が、実は犬の耳の中で細菌や真菌が繁殖する絶好の条件となるのです[2]。ふと思い返せば、その年の6月は例年より雨が多く、湿度計は連日85%を示していました。
梅雨時期に外耳炎が増える3つの要因
耳道内の湿度上昇により、細菌・真菌が活性化。特にマラセチアという酵母菌が増殖しやすくなります。
梅雨特有の気温の上下により、犬の免疫力が低下。皮膚のバリア機能も弱まります。
換気不足によるカビの発生、エアコンの不適切な使用による結露なども間接的な要因に。
さて、犬の耳の構造をご存知でしょうか。人間と違い、犬の外耳道はL字型に曲がっています。この構造が通気性を悪くし、湿気がこもりやすい環境を作り出すのです[3]。
見逃してはいけない耳をかくサイン
耳をかく行動は、外耳炎の最も早期に現れる症状です。しかし、多くの飼い主さんが「いつものこと」として見過ごしてしまいます。
私が経験した中で印象深いのは、2018年梅雨時のミニチュアダックスフンドの症例でした。飼い主さんは「たまに耳をかく程度」と思っていたそうですが、実際には1日に20回以上も後ろ足で耳をかいていたことが判明。診察すると、すでに中等度の外耳炎に進行していました。
⚠️ こんな行動が見られたら要注意
・1日に10回以上耳をかく
・頭を激しく振る(特に朝起きた時)
・床に耳をこすりつける
・耳を触られるのを嫌がる
実のところ、犬は痛みや不快感を隠す習性があります。野生時代の名残で、弱みを見せると群れから外されるリスクがあったからです。ですから、わずかな行動の変化も見逃さないことが大切なのです。
湿気と細菌の危険な関係
梅雨時期の外耳炎で最も多い原因菌は、ブドウ球菌とマラセチアです[4]。これらは普段から犬の皮膚に存在する常在菌ですが、湿度が高くなると爆発的に増殖します。
とりわけマラセチアは、湿度70%を超えると活性化し始めます。そして80%を超えると、わずか24時間で通常の10倍以上に増殖することもあるのです。
| 湿度 | マラセチアの活性度 | 外耳炎リスク |
|---|---|---|
| 60%以下 | 低い | 通常 |
| 60-70% | やや活発 | やや上昇 |
| 70-80% | 活発 | 高い |
| 80%以上 | 非常に活発 | 非常に高い |
私が勤務していた動物病院での2015年の統計では、6月の外耳炎の診察件数は、4月と比べて約2.8倍に増加していました。この数字が示すように、梅雨の影響は決して軽視できません。
リスクが高い犬種の見分け方
垂れ耳の犬種は、立ち耳の犬種と比較して外耳炎のリスクが1.76倍高いことが研究で明らかになっています[5]。
特にリスクが高い犬種として、以下が挙げられます:
外耳炎になりやすい犬種TOP5
- バセットハウンド - オッズ比5.87倍
- チャイニーズ・シャーペイ - オッズ比3.44倍
- ラブラドゥードル - オッズ比2.95倍
- ビーグル - オッズ比2.54倍
- ゴールデンレトリーバー - オッズ比2.23倍
それでも、これらの犬種を飼っているからといって諦める必要はありません。適切な予防策を講じれば、外耳炎のリスクは大幅に減らすことができます。
梅雨を乗り切る実践的な予防法
15年の経験から、最も効果的だった予防法をご紹介します。
1. 環境管理の徹底
室内の湿度を60%以下に保つことが理想的です。エアコンの除湿機能を活用し、こまめな換気を心がけましょう。2017年に私が担当した外耳炎の症例80件のうち、約7割が室内の湿度管理が不十分な家庭でした。
2. 耳のチェックを習慣化
週に2〜3回、耳の中を観察する習慣をつけましょう。ただし、過度な耳掃除は逆効果です。綿棒で奥まで掃除すると、かえって耳道を傷つけ、炎症を引き起こす原因になります。
3. 散歩後のケア
雨の日の散歩後は、必ず耳の周りの水分を拭き取ってください。とはいえ、耳の中まで拭く必要はありません。耳介(耳たぶ)の部分を優しく乾いたタオルで拭く程度で十分です。
4. 適切な栄養管理
免疫力を高める食事も重要です。オメガ3脂肪酸を含むフードは、皮膚のバリア機能を強化し、炎症を抑える効果があります[6]。
治療のタイミングを逃さないために
もし外耳炎になってしまったら、早期治療が肝心です。
実際に、急性外耳炎の段階で治療を開始すれば、多くの場合1〜2週間で改善します。しかし、慢性化してしまうと、治療期間は数ヶ月に及ぶこともあります[7]。
飼い主の声
「去年の梅雨、うちのコッカースパニエルが外耳炎になりました。最初は軽く考えていたのですが、イヌラバ博士のアドバイスで環境管理を徹底したところ、今年は一度も再発していません。湿度計を買ったのが本当に良かったです」(東京都・40代女性)
「梅雨時期は特に気をつけています。毎朝、愛犬の耳をチェックするのが日課になりました。おかげで、少しでも赤みがあればすぐに気づけるようになり、大事に至る前に対処できています」(神奈川県・30代男性)
よくある質問
Q1. 梅雨時期だけ耳掃除の回数を増やすべきですか?
いいえ、逆効果になる可能性があります。過度な耳掃除は耳道を傷つけ、かえって炎症を引き起こす原因になります。週1回程度、獣医師の指導のもとで行うのが適切です。重要なのは掃除の回数ではなく、日々の観察と環境管理です。
Q2. 外耳炎は他の犬にうつりますか?
基本的に外耳炎自体は伝染しません。ただし、耳ダニ(ミミヒゼンダニ)が原因の場合は、他の犬や猫に感染する可能性があります。黒い耳垢が特徴的なので、そのような症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
Q3. シャンプー後の耳の水分はどう処理すればいいですか?
シャンプー前に、耳の中に脱脂綿を軽く詰めておくと水の侵入を防げます。シャンプー後は必ず脱脂綿を取り除き、耳介の水分を優しく拭き取ってください。ドライヤーで乾かす際は、耳の中に直接風を当てないよう注意しましょう。
Q4. 市販の耳洗浄液を使っても大丈夫ですか?
健康な耳であれば問題ありませんが、すでに炎症がある場合は悪化させる可能性があります。特に鼓膜が破れている場合は、内耳に影響を与える危険性があるため、必ず獣医師の診察を受けてから使用してください。
Q5. 外耳炎を繰り返す場合はどうすればいいですか?
基礎疾患が隠れている可能性があります。アレルギー性皮膚炎、甲状腺機能低下症、食物アレルギーなどが原因で外耳炎を繰り返すことがあります。詳しい検査を受けて、根本原因を特定することが重要です。
梅雨時期の外耳炎は、決して避けられない宿命ではありません。
15年間の経験から断言できるのは、飼い主さんの日々の観察と適切な環境管理が、何よりも強力な予防策だということです。湿度80%を超える日本の梅雨は、確かに犬にとって過酷な季節。それでも、愛犬の小さな変化を見逃さず、早めに対処することで、健康な耳を保つことは十分可能です。
今年の梅雨も、愛犬と一緒に元気に乗り切りましょう。耳をかく回数が増えたかな?と思ったら、それは愛犬からのSOSかもしれません。迷わず動物病院へ相談してくださいね。
参考文献
- Bajwa J. Canine otitis externa — Treatment and complications. Can Vet J. 2019;60(1):97-99. PMC6294027
- 東京の湿度について気象庁データで徹底解説!年間推移や季節ごとの変動・今日の予報と地域比較. Lifestyle Assist. 2025年6月. URL: https://lifestyle.assist-all.co.jp/tokyo-humidity-annual-transition-seasonal-variation-today-forecast-comparison/
- Huang H, Little CJL, McNeil PE. Histological Changes in the External Ear Canal of Dogs with Otitis Externa. Vet Dermatol. 2009;20:422-428. DOI: 10.1111/j.1365-3164.2009.00853.x
- Secker B, Shaw S, Atterbury RJ. Pseudomonas spp. in Canine Otitis Externa. Microorganisms. 2023;11(11):2650. DOI: 10.3390/microorganisms11112650
- O'Neill DG, Volk AV, Soares T, et al. Frequency and predisposing factors for canine otitis externa in the UK – a primary veterinary care epidemiological view. Canine Med Genet. 2021;8:7. PMC8422687
- Ponn PC, Tipold A, Volk AV. Can We Minimize the Risk of Dogs Developing Canine Otitis Externa?-A Retrospective Study on 321 Dogs. Animals (Basel). 2024;14(17):2537. DOI: 10.3390/ani14172537
- Saridomichelakis MN, Farmaki R, Leontides LS, Koutinas AF. Aetiology of canine otitis externa: A retrospective study of 100 cases. Vet Dermatol. 2007;18:341-347. PMID: 17845622
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