耳の付け根を掻く症状は、外耳炎の初期サインである可能性が高く、アレルギー性皮膚炎が原因の約43%を占めます。
早期発見と適切な治療により、症状の慢性化を防ぐことができます。
耳の付け根への執着が示す危険信号
耳の付け根を集中的に掻く行動は、通常の耳掻きとは明確に異なります。 2018年1月、札幌の動物病院で出会ったゴールデンレトリバーの症例が印象的でした。飼い主の田中さん(仮名)は「最近、耳じゃなくて付け根ばかり気にして...」と心配そうに話していました。
耳道内の炎症が初期段階では、痛みや違和感が耳の付け根に集中することがあります。[1] これは耳道のL字型構造により、炎症の初期段階で垂直耳道の入り口付近に不快感が生じやすいためです。
さて、なぜ犬たちは耳そのものではなく、付け根を執拗に掻くのでしょうか。理由は意外にシンプルで、耳の中が痒くても直接掻けないため、代わりに付け根を掻くのです。人間でいえば、背中の届かない部分が痒いときに、近い場所を掻くようなものですね。
アレルギーが引き起こす耳トラブルの真実
外耳炎の原因として最も多いのは、実はアレルギー性皮膚炎です。 Saridomichelakisらの研究によると、外耳炎を発症した犬100頭のうち43頭(43%)でアレルギー性皮膚炎が主因として確認されました。[1] ただし、この数字だけを見て安心してはいけません。
「うちの子はアレルギーなんてないはず」と思われるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。アレルギー性皮膚炎の83%の犬が外耳炎を併発するという報告もあるのです。[2] つまり、耳の症状が先に現れて、後からアレルギーだと判明するケースも多いということ。
私が経験した中でも、2020年春の花粉シーズンに来院したビーグル犬の例が典型的でした。最初は「耳の付け根を掻く」という主訴でしたが、詳しく検査すると、実は環境アレルゲンに対する反応が原因だったのです。
アレルギーと外耳炎の関係
• 犬アトピー性皮膚炎の犬の83%が外耳炎を発症
• 食物アレルギーでも同様に高い併発率
• 季節性のある場合は環境アレルゲンの可能性大
マラセチアという隠れた敵の正体
耳の付け根を掻く症状の背後には、マラセチアという酵母菌が潜んでいることがあります。 実のところ、マラセチアは健康な犬の皮膚にも普通に存在する常在菌です。しかし、何らかの理由で過剰に増殖すると、激しい痒みを引き起こします。
2019年の夏、湿度の高い時期に来院したトイプードルがいました。耳の付け根を執拗に掻き、茶色い耳垢が特徴的でした。顕微鏡で確認すると、ピーナッツ型のマラセチアがびっしり。[3] このケースでは、湿度と皮脂の過剰分泌が増殖の引き金となっていました。
興味深いことに、マラセチアは細菌と共生関係にあることが分かっています。[4] つまり、マラセチアが増えると細菌も増え、細菌が増えるとマラセチアも増える。この悪循環を断ち切ることが、治療の鍵となります。
見逃してはいけない初期症状のサイン
耳の付け根を掻く以外にも、注意すべきサインがいくつかあります。 とはいえ、これらのサインは微妙で見逃しやすいものばかり。私も新人時代には何度も見落としていました。
ある日、定期健診で来院したラブラドールの飼い主さんが「最近、名前を呼んでも反応が鈍い」と話していました。年齢のせいかと思われていましたが、耳を診察すると軽度の炎症が。耳の付け根にも軽い発赤がありました。このように、聴力の変化も重要なサインなのです。
緊急受診が必要な症状
• 耳から膿のような分泌物が出ている
• 頭を傾けたまま戻らない
• 触ると激しく痛がる、攻撃的になる
• 顔面の腫れや発熱を伴う
日常で観察すべきポイント
毎日の観察で早期発見は可能です。私がおすすめするのは、スキンシップの時間を利用した「さりげないチェック」です。
例えば、2021年に出会った柴犬の飼い主さんは、毎晩のブラッシング時に耳周りも確認する習慣をつけていました。「いつもと違う臭いがする」という気づきから、早期に外耳炎を発見できたのです。
適切な対処法と間違いやすい落とし穴
耳の付け根を掻く症状への対処は、原因によって大きく異なります。 最も重要なのは、自己判断で市販の薬を使わないこと。なぜなら、間違った治療は症状を悪化させる可能性があるからです。
2022年秋、ある飼い主さんが「ネットで調べて耳掃除をしたら、余計ひどくなった」と来院されました。綿棒で耳道を傷つけ、二次感染を起こしていたのです。良かれと思った行動が、愛犬を苦しめる結果に。こんな悲しいことはありません。
では、どうすればいいのでしょうか。まず、症状を記録することから始めましょう。いつから、どんな時に、どの程度の頻度で掻くのか。この情報は獣医師にとって診断の重要な手がかりとなります。
家庭でできる予防ケア
予防は治療に勝ります。しかし、過度なケアは逆効果。週1回程度の耳のチェックで十分です。
ふと思い出すのは、2023年に診察したコッカースパニエルのことです。垂れ耳で外耳炎になりやすい犬種ですが、飼い主さんの適切なケアにより、10歳まで一度も外耳炎を発症しませんでした。秘訣は「やりすぎない」こと。耳の中の自然な自浄作用を邪魔しないことが大切なのです。
病院での検査と治療の実際
動物病院では、まず詳細な問診と視診から始まります。 耳鏡検査により、鼓膜の状態や耳道内の炎症の程度を確認します。さらに、耳垢の細胞診検査で原因菌を特定します。
治療は原因に応じて選択されます。アレルギーが原因の場合は、アレルゲンの特定と回避、必要に応じて抗アレルギー薬の投与。マラセチアや細菌感染には、適切な抗真菌薬や抗生物質を使用します。
重要なのは、症状が改善しても治療を中断しないこと。2024年の症例では、飼い主さんの自己判断による治療中断で、3回も再発を繰り返したケースがありました。完治までしっかりと治療を続けることが、慢性化を防ぐ鍵となります。
まとめ:愛犬の健康を守るために
耳の付け根を掻く行動は、単なる癖ではなく、健康上の問題を示すサインかもしれません。早期発見と適切な治療により、愛犬の苦痛を最小限に抑えることができます。
15年間の経験から言えることは、飼い主さんの「いつもと違う」という直感は、多くの場合正しいということです。その直感を大切に、迷ったら獣医師に相談してください。愛犬の健康と幸せのために、一緒に最善の選択をしていきましょう。
記事のポイント
• 耳の付け根を掻く行動は外耳炎の初期症状の可能性が高い
• アレルギー性皮膚炎が外耳炎の主要原因(43%)
• マラセチアの過剰増殖も重要な要因
• 早期発見・早期治療が慢性化を防ぐ
• 自己判断での治療は避け、獣医師の診察を受ける
よくある質問
耳の付け根を掻く頻度はどの程度なら正常ですか?
1日に1〜2回程度の軽い掻き方なら正常範囲内です。しかし、1時間に何度も掻く、掻いた後に鳴く、皮膚が赤くなるほど掻くなどの場合は、異常のサインです。特に、いつもと違う執着的な掻き方をする場合は、早めに獣医師に相談することをおすすめします。
市販の耳掃除用品を使っても大丈夫ですか?
健康な耳であれば、週1回程度の使用は問題ありません。ただし、すでに炎症がある場合は、市販品が刺激となって悪化する可能性があります。耳の付け根を掻く症状がある場合は、まず獣医師の診断を受けてから、適切な製品を選ぶことが重要です。綿棒の使用は耳道を傷つける恐れがあるため避けましょう。
アレルギーが原因の場合、完治は可能ですか?
アレルギー自体を完全に治すことは難しいですが、適切な管理により症状をコントロールすることは十分可能です。アレルゲンの特定と回避、定期的な薬物療法、スキンケアなどを組み合わせることで、多くの犬が快適に生活できます。重要なのは、継続的な管理と定期的な獣医師のフォローアップです。
どんな犬種が外耳炎になりやすいですか?
垂れ耳の犬種(コッカースパニエル、ビーグル、バセットハウンドなど)や、耳道内に毛が多い犬種(プードル、シーズーなど)は外耳炎のリスクが高いです。また、アレルギー体質になりやすい犬種(ゴールデンレトリバー、ラブラドール、柴犬など)も注意が必要です。ただし、どんな犬種でも発症する可能性はあります。
治療費はどのくらいかかりますか?
初診時の検査費用は3,000〜5,000円程度、治療薬は1,000〜3,000円程度が一般的です。ただし、原因や重症度により大きく異なります。慢性化すると長期治療が必要となり、費用も増加します。早期治療により、結果的に治療費を抑えることができるため、症状に気づいたら早めの受診をおすすめします。
飼い主の声
「うちのミニチュアダックスが耳の付け根を掻き始めたとき、最初は気にしていませんでした。でも、だんだん頻度が増えて、ついには耳を触らせてくれなくなって...。病院で診てもらったら、アレルギーによる外耳炎の初期でした。早めに治療を始められたおかげで、2週間ほどで良くなりました。今は月1回の定期チェックで、再発もなく元気に過ごしています。」(東京都・40代女性・ミニチュアダックス5歳)
「我が家のゴールデンは、毎年春になると耳の付け根を掻いていました。花粉症かなと思っていたら、実は食物アレルギーも併発していたんです。獣医さんと相談して、フードを変更し、花粉の時期は薬も使うようになりました。最初は大変でしたが、今では症状をうまくコントロールできています。何より、痒みから解放されて、以前の明るい性格が戻ってきたのが嬉しいです。」(神奈川県・50代男性・ゴールデンレトリバー7歳)
参考文献
- Saridomichelakis MN, Farmaki R, Leontides LS, Koutinas AF. Aetiology of canine otitis externa: a retrospective study of 100 cases. Vet Dermatol. 2007;18(5):341-347. doi: 10.1111/j.1365-3164.2007.00619.x. PMID: 17845622
- O'Neill DG, Volk AV, Soares T, Church DB, Brodbelt DC, Pegram C. Frequency and predisposing factors for canine otitis externa in the UK – a primary veterinary care epidemiological view. Canine Genet Epidemiol. 2021;8(1):7. doi: 10.1186/s40575-021-00106-1
- Bajwa J. Canine otitis externa — Treatment and complications. Can Vet J. 2019;60(1):97-99. PMID: 30651661; PMCID: PMC6294027
- Chen TA, Halliwell REW, Pemberton AD, Hill PB. Identification of major allergens of Malassezia pachydermatis antigens in dogs with atopic dermatitis and Malassezia overgrowth. Vet Dermatol. 2002;13(3):141-150. doi: 10.1046/j.1365-3164.2002.00291.x
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