梅雨時の抜け毛急増の見極め方:換毛期なら全身均等に抜けて皮膚は正常。病的脱毛は部分的で皮膚に赤み・フケ・臭いを伴います。
確認ポイント:①抜け方の範囲(全身or部分的)②皮膚の状態(正常or異常)③かゆみの有無④抜け毛の期間(6-7週間or長期)
緊急受診の目安:皮膚の赤み・湿疹・悪臭・激しいかゆみ・円形脱毛がある場合は病的脱毛の可能性大。早期治療が必要です。
不安を煽る梅雨時の抜け毛地獄
梅雨時期は犬の抜け毛が最も増える季節です。実際のところ、5月から7月にかけては本来の換毛期と重なるため[1]、抜け毛の量は通常の3倍以上になることも。しかし問題は、この時期の湿度が平均75%を超え[2]、皮膚トラブルも同時多発することなんです。
私が勤めていた品川区の動物病院では、6月の皮膚科受診が他の月の1.8倍に跳ね上がっていました。なぜこんなに増えるのか?それは、高温多湿の環境が細菌や真菌の温床となり、正常な換毛期と病的な脱毛が混在してしまうからです。
さて、ここで重要な事実をお伝えします。梅雨時の抜け毛には大きく分けて3つのパターンがあります。①正常な換毛期による生理的脱毛、②湿度による皮膚病からの病的脱毛、③ストレスによる心因性脱毛。これらは見た目が似ていても、対処法がまったく異なるのです。
⚠️ 緊急性の高い症状
以下の症状が1つでもある場合は、24時間以内に動物病院へ:円形の脱毛斑・皮膚の赤みや腫れ・強い悪臭・激しいかゆみで自傷行為
換毛期と病的脱毛の決定的な違い
正常な換毛期の特徴
まず押さえておきたいのは、換毛期はダブルコートの犬種特有の現象だということ。柴犬、ゴールデンレトリーバー、ハスキーなどが該当します[3]。春の換毛期は冬毛が抜けて夏毛に、秋は逆に夏毛から冬毛への生え変わりです。
換毛期の最大の特徴は「全身から均等に抜ける」こと。ブラッシングすると、まるで羊の毛刈りのようにごっそり取れますが、地肌は健康的なピンク色を保っています。期間は平均6〜7週間[4]。この間、1日2回のブラッシングが理想的です。
ところが、室内飼いの増加により状況は複雑化しています。エアコンで一定温度に保たれた環境では、犬の体が季節を感知できず、年中少しずつ毛が抜ける「通年性脱毛」になることも。去勢済みのオス犬に多く見られる現象です[5]。
梅雨特有の病的脱毛パターン
膿皮症による脱毛は、梅雨時期の代表的な皮膚トラブルです。常在菌であるブドウ球菌が、湿度の上昇により異常増殖して発症します[6]。特徴は、お腹や内股に赤いブツブツができ、その周囲の毛が抜け落ちること。「なんだか愛犬が臭う」と感じたら要注意です。
2018年6月、私が診察したフレンチブルドッグのケースを紹介しましょう。飼い主さんは「換毛期だと思っていた」とおっしゃいましたが、よく見ると腹部に小さな膿疱が無数にあり、その周囲だけ脱毛していました。皮膚の細菌培養検査で膿皮症と診断し、抗生物質と薬用シャンプーで2週間で改善しました。
マラセチア皮膚炎も梅雨の大敵です。こちらは酵母菌(真菌)が原因で、独特の酸っぱい臭いが特徴[7]。耳の中や指の間、脇の下など、湿気がこもりやすい部位から始まります。かゆみが強く、掻きむしることで二次的に脱毛が広がります。
病的脱毛の見分け方チェックリスト
- □ 脱毛が部分的(特に腹部、内股、耳周り)
- □ 皮膚に赤み、ブツブツ、フケがある
- □ 独特の臭い(膿皮症は生臭い、マラセチアは酸っぱい)
- □ 激しいかゆみで頻繁に掻いている
- □ 脱毛部位の皮膚が黒ずんでいる
見逃しがちな「第3の脱毛」ストレス性脱毛
実は梅雨時期、もう一つ増える脱毛があります。それがストレス性脱毛です。雨続きで散歩に行けない、湿度で不快、飼い主の生活リズムの変化など、さまざまなストレスが引き金となります。
ストレス性脱毛の特徴は「舐め壊し」です。前足や脇腹など、舐めやすい部位を執拗に舐め続け、その部分だけハゲてしまいます。2019年の梅雨、私が診た症例では、在宅勤務になった飼い主さんの生活リズムの変化がストレスとなり、愛犬が前足を舐め壊していました。
とはいえ、「うちの子はストレスなんて」と思われるかもしれません。しかし、犬は環境の変化に敏感です。普段と違う音、匂い、湿度の変化だけでもストレスになりえます。特に梅雨時は気圧の変化も激しく、それだけで体調を崩す子もいるのです。
今すぐできる!梅雨時の抜け毛対策実践法
環境管理で8割改善
まず重要なのは室内の湿度管理です。犬にとって快適な湿度は50〜60%[8]。エアコンの除湿機能を活用し、湿度計で常にチェックしましょう。私の経験上、湿度を60%以下に保つだけで、皮膚トラブルの発生率は半減します。
次に大切なのが「乾燥」です。雨の散歩後、タオルドライだけで済ませていませんか?生乾きは細菌・真菌の温床です。必ずドライヤーで完全に乾かしてください。特に足の指の間、脇の下、耳の後ろは念入りに。
正しいブラッシングの極意
梅雨時のブラッシングは「回数より質」です。1日1回でも、正しい方法で行えば効果的。アンダーコート用のスリッカーブラシで下毛を取り、仕上げにコームで整えます。ポイントは、皮膚を傷つけないよう優しく、でもしっかりと抜け毛を取ること。
ふと思い出すのは、2017年の6月、ブラッシングを嫌がる柴犬の飼い主さんに教えた方法です。「おやつタイム」と「ブラッシングタイム」を組み合わせ、少しずつ慣らしていく。最初は1分から始め、徐々に時間を延ばす。3週間後には、自分からブラシを持ってくるようになったそうです。
食事で内側からケア
意外に見落とされがちなのが栄養面です。皮膚の健康には、オメガ3脂肪酸、亜鉛、ビタミンEが不可欠[9]。市販のドッグフードでも、これらの栄養素を強化したものを選びましょう。サプリメントの使用も効果的ですが、必ず獣医師に相談してから。
専門的治療が必要な時の見極め方
さて、ここまで読んで「うちの子、もしかして…」と思われた方へ。以下の症状が一つでもあれば、迷わず動物病院へ行ってください。
- 脱毛部位の皮膚が赤く腫れている
- 膿やかさぶたができている
- 強い悪臭がする
- 円形の脱毛斑がある(皮膚糸状菌症の可能性)
- 激しいかゆみで夜も眠れない様子
- 脱毛が2週間以上改善しない
動物病院では、皮膚の状態を顕微鏡で確認し、必要に応じて培養検査や血液検査を行います。膿皮症なら抗生物質、マラセチアなら抗真菌薬と、原因に応じた治療を行います。薬用シャンプーの処方もあり、これが劇的に効くことも多いんです。
実のところ、早期発見・早期治療が何より大切。「様子を見よう」と先延ばしにすると、治療期間が長引き、愛犬の苦痛も増します。私が見てきた中で、1週間の遅れが1ヶ月の治療期間延長につながったケースもありました。
飼い主の声
実際に梅雨時の脱毛を経験した飼い主さんの声
「去年の6月、うちのゴールデンが急に毛が抜け始めて。最初は換毛期だと思って放置してたんです。でも、お腹に赤いブツブツができて、変な臭いもして…。病院で膿皮症と診断されました。もっと早く気づいてあげればよかった。今年は湿度管理を徹底して、毎日ブラッシングしています。おかげで今のところトラブルなしです!」(東京都・Kさん・ゴールデンレトリーバー7歳)
「梅雨になると毎年悩まされていた抜け毛。でも病院で『これは正常な換毛期です』と言われてホッとしました。ただ、湿度対策は大事だと教わり、除湿機を導入。部屋がカラッとして、私も犬も快適になりました。抜け毛の量は変わりませんが、皮膚トラブルは一度も起きていません」(神奈川県・Tさん・柴犬5歳)
よくある質問
Q: シングルコートの犬種でも梅雨時に抜け毛が増えることはありますか?
A: はい、あります。プードルやマルチーズなどシングルコートの犬種は本来換毛期がありませんが、梅雨時の皮膚トラブルやストレスで脱毛することがあります。むしろ換毛期がない分、異常な脱毛は病的なサインの可能性が高いので、早めの受診をおすすめします。
Q: 市販の犬用除湿シートは効果がありますか?
A: 部分的には効果がありますが、根本的な解決にはなりません。犬のベッド周りに置く分には良いですが、部屋全体の湿度管理にはエアコンや除湿機が必要です。除湿シートはあくまで補助的なものと考えてください。
Q: 抜け毛がひどい時、サマーカットにした方がいいですか?
A: 必ずしもそうとは限りません。被毛には紫外線から皮膚を守る役割もあります。極端な短さにすると、かえって皮膚トラブルを招くことも。トリマーさんと相談し、犬種に適した長さを保つことが大切です。
Q: 人間用の除湿機でも大丈夫ですか?
A: はい、もちろん大丈夫です。ただし、犬が直接風に当たらない位置に設置し、水タンクは毎日清掃してください。カビが生えた除湿機は逆効果になりますので、メンテナンスは欠かさずに。
Q: 梅雨時期だけ抜け毛がひどく、他の季節は普通です。これは病気ですか?
A: 季節性の脱毛症の可能性もありますが、多くは湿度による一時的な皮膚トラブルです。毎年同じ時期に起こるなら、環境管理を見直してみてください。それでも改善しない場合は、一度詳しい検査を受けることをおすすめします。
まとめ
梅雨時の抜け毛問題、いかがでしたでしょうか。正常な換毛期なのか、病的な脱毛なのか。その見極めは、①抜け方の範囲、②皮膚の状態、③随伴症状の3つをチェックすることから始まります。
そして何より大切なのは、日々の観察です。毎日のブラッシングは、単なる毛の手入れではありません。愛犬の健康状態を確認する大切な時間。「いつもと違う」その気づきが、早期発見につながるのです。
梅雨という季節は、確かに犬にとっても飼い主にとっても試練の時。でも、適切な知識と対策があれば、必ず乗り越えられます。15年間の動物病院勤務で学んだことは、「予防に勝る治療なし」ということ。この記事が、あなたと愛犬の快適な梅雨ライフの一助となれば幸いです。
雨音を聞きながら、愛犬とゆったり過ごす午後。そんな穏やかな時間が、今年の梅雨にはたくさん訪れますように。
参考文献
- Miller MA, Dunstan RW. Seasonal flank alopecia in boxers and Airedale terriers: 24 cases (1985-1992). J Am Vet Med Assoc. 1993;203(11):1567-72. PMID: 8288480
- Müntener T, et al. Canine noninflammatory alopecia: a comprehensive evaluation of common and distinguishing histological characteristics. Vet Dermatol. 2012;23(3):206-e44. PMID: 22575019
- Verschuuren MUMY, et al. Investigation of the association of the MLPH gene with seasonal canine flank alopecia in Rhodesian Ridgeback dogs. Canine Med Genet. 2024;11(1):5. PMID: 39449035
- Brunner MAT, et al. Novel insights into the pathways regulating the canine hair cycle and their deregulation in alopecia X. PLoS One. 2017;12(10):e0186469. PMID: 29065140
- 本田技研工業株式会社. 犬の換毛期はいつ?時期はずれにも毛が抜ける理由や抜け毛対策をご紹介. Honda Dog. https://www.honda.co.jp/dog/useful/molting/ (最終アクセス: 2025年1月)
- つだ動物病院. 高温多湿の夏には要注意 犬の膿皮症. 2021年3月8日. https://tsuda-vet.com/高温多湿の夏には要注意-犬の膿皮症/
- ビルバックジャパン. 犬の皮膚トラブル:アトピー性皮膚炎. https://jp.virbac.com/advice/health-topics/dog-atopic-dermatitis-treatment
- アース・ペット株式会社. 【獣医師監修】梅雨時のペットの体調管理. https://www.earth-pet.co.jp/advice/advice190602
- 稲川動物病院. 犬や猫の夏に多い皮膚病ってどんな症状? 2023年6月26日. https://inagawa-ah.com/allblog/blog/599/
- SBIペット少短. 犬の皮膚病でよくある症状. https://www.sbipet-ssi.co.jp/column/dog/D0110.html
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
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