マラセチア外耳炎は、犬の耳に常在する酵母様真菌が過剰増殖することで起こる外耳炎です。
特徴的な症状:黒~茶色の耳垢、甘酸っぱい異臭、強いかゆみ、頭を振る行動
治療法:耳道洗浄、抗真菌薬の点耳薬、基礎疾患の治療が必要です。
「最近、うちの子の耳から黒いカスがポロポロ出てくるんです…」そんな不安を抱えていませんか?2023年の梅雨時期、私が勤めていた動物病院には同じ悩みを持つ飼い主さんが連日来院されました。ジメジメとした季節になると、なぜか増える耳のトラブル。実は、その黒いカスの正体はマラセチアという真菌が原因かもしれません。
突然現れる黒い耳垢の正体
マラセチアは平均長径約3〜5μmの小型真菌で、通常は犬の皮膚や外耳道表面に常在しています。しかし、ある条件が重なると爆発的に増殖し、独特の黒っぽい耳垢を作り出すのです。
正直に告白しますと、私も新人時代は「ただの耳垢でしょ?」と軽く考えていました。ところが、ある日コッカースパニエルのモモちゃんが来院した時のこと。飼い主さんが「朝起きたら枕が真っ黒だった」と慌てて連れてこられたんです。耳を覗くと、まるでコーヒーの出がらしのような黒い物体がびっしり。これがマラセチア外耳炎との最初の出会いでした。
研究によると、[1]外耳炎を持つ犬の実に72.9%からマラセチアが分離されるという報告があります。つまり、耳のトラブルを抱える犬の約7割にこの真菌が関与している可能性があるということです。
甘酸っぱい異臭が教えてくれるサイン
マラセチア外耳炎の特徴的な症状として、茶色~黒っぽい耳垢と独特な異臭が挙げられます。この匂い、表現が難しいのですが…私たちスタッフの間では「発酵したパンのような」とか「ビールのような」と表現することが多かったです。
2022年の夏、フレンチブルドッグのブルーくんの飼い主さんが「最近、顔を近づけると酸っぱい匂いがする」と相談されました。耳を検査すると、案の定マラセチアがうじゃうじゃ。顕微鏡で見ると、まるでピーナッツが連なったような形をしているんです。[2]診断基準として、400倍視野で5個以上のマラセチアが観察される場合は異常とされています。
さて、なぜマラセチアは黒い耳垢を作るのでしょうか?実は、マラセチアは皮脂を栄養源として増殖し、その代謝産物と炎症による分泌物が混ざり合うことで、あの特徴的な黒っぽい耳垢が形成されるのです。
なぜうちの子だけ?かかりやすい犬種の秘密
とはいえ、すべての犬が同じようにマラセチア外耳炎になるわけではありません。垂れ耳の犬種、皮脂分泌が多い犬種、アレルギー体質の犬は特に注意が必要です。
私の経験上、特に多かったのは: - アメリカン・コッカー・スパニエル(皮脂分泌が多い) - バセットハウンド(垂れ耳+皮脂分泌) - シーズー(アレルギー体質が多い) - フレンチブルドッグ(皮膚のひだが多い)
ふと思い出すのは、2021年秋のこと。「うちのラブラドールは水遊びが大好きなんです」という飼い主さん。実はこの「水遊び後の生乾き」もマラセチア増殖の大きな要因なんです。[3]湿度の高い環境はマラセチアの天国。梅雨時期に外耳炎が増えるのも納得ですよね。
見逃しがちな初期症状を見抜くコツ
初期症状として最も多いのは「首を傾ける」「耳を掻く回数が増える」という行動の変化です。飼い主さんの多くは「ちょっと痒いだけかな」と様子を見がちですが、これが落とし穴。
実際のところ、私も以前は「少し赤いだけなら大丈夫」と安易に考えていました。しかし、ある時ダックスフンドのマロンちゃんが、初診から1週間で劇的に悪化して再来院。耳道が腫れ上がり、点耳薬も入らない状態に。その時の獣医師の言葉が忘れられません。「早期治療なら1週間で治るものが、放置すると1ヶ月以上かかることもある」
診断は意外とシンプルです。耳垢を採取し、顕微鏡で観察するだけ。[4]細胞診検査と呼ばれるこの方法で、わずか5分程度でマラセチアの存在を確認できます。
治療の黄金ルール:洗浄が8割
それでは、実際の治療について。マラセチア外耳炎の治療成功率は91%と高く、適切な治療を行えば多くの症例で改善が見られます。[5]
治療の基本は3つ: 1. 耳道洗浄(最も重要!) 2. 抗真菌薬の点耳 3. 基礎疾患の管理
正直、飼い主さんの中には「薬だけもらえればいい」という方もいらっしゃいます。でも、汚れた耳道に薬を入れても効果は半減。2020年の研究でも、[6]耳道洗浄の重要性が強調されています。まるで泥だらけの傷口に絆創膏を貼るようなものですから。
一般的に使用される抗真菌薬には、ミコナゾール、クロトリマゾール、テルビナフィンなどがあります。最近では1回の投与で30日間効果が持続する製剤も登場し、飼い主さんの負担も軽減されています。
再発を防ぐ日常ケアの極意
残念ながら、マラセチア外耳炎は再発しやすい疾患です。しかし適切な予防ケアで、再発リスクを大幅に減らすことができます。
私がよくお伝えする「3つの予防法」:
1. 週1回の耳チェック習慣 「土曜日は耳の日」と決めて、愛犬の耳を覗く習慣をつけましょう。異臭や黒い汚れを早期発見できます。
2. 適切な耳掃除 綿棒は厳禁!専用の洗浄液をコットンに含ませ、優しく拭き取る程度に。やりすぎは逆効果です。
3. 基礎疾患の管理 アレルギーや脂漏症など、根本原因となる疾患の治療が最重要。
実のところ、2019年にシェルティのナナちゃんが月1回のペースで外耳炎を繰り返していました。詳しく検査すると食物アレルギーが判明。フードを変更したところ、ピタリと再発が止まったんです。このように、表面的な治療だけでなく、根本原因を探ることが大切なのです。
飼い主さんができる簡単チェック法
さて、動物病院に行く前に自宅でできるチェック方法をご紹介します。
「耳めくりテスト」: 耳をめくって内側を観察。健康な耳はピンク色でサラッとしています。以下の変化があれば要注意: - 赤みがある - 黒や茶色の汚れ - ベタベタしている - 異臭がする
「頭振りカウント」: 1時間に何回頭を振るか数えてみてください。健康な犬なら1〜2回程度。5回以上なら耳に違和感がある証拠です。
FAQ(よくあるご質問)
Q1. マラセチア外耳炎は人にうつりますか? A. 基本的に人への感染リスクは極めて低いです。ただし、免疫力が低下している方は念のため手洗いを心がけてください。過去に新生児集中治療室での院内感染例が報告されていますが、一般家庭では心配ありません。
Q2. 市販の耳掃除グッズで治療できますか? A. 残念ながら、マラセチア外耳炎は市販品だけでの完治は困難です。抗真菌成分を含む医薬品が必要なため、必ず動物病院を受診してください。市販の洗浄液は予防には有効ですが、治療には不十分です。
Q3. 片耳だけの場合でも両耳を治療すべきですか? A. はい、予防的に両耳の治療をお勧めします。マラセチアは常在菌のため、片耳に症状が出た場合、もう片方も要注意。獣医師の指示に従って治療してください。
Q4. 治療期間はどのくらいかかりますか? A. 軽症なら1〜2週間、重症例では1ヶ月以上かかることもあります。研究によると、治療成功例の中央値は27日間でした。焦らず根気よく治療を続けることが大切です。
Q5. 再発を繰り返す場合はどうすればいいですか? A. アレルギーや内分泌疾患など、基礎疾患の精査が必要です。食事の見直し、環境改善、定期的な耳洗浄など、総合的なアプローチが重要。皮膚科専門医への紹介も検討してください。
飼い主さんの声
「3歳のフレンチブルドッグを飼っています。夏になると必ず耳が臭くなって困っていました。病院で『マラセチア』と診断され、週1回の耳洗浄を始めたところ、嘘のように改善しました。今では月1回の予防ケアで、もう1年以上再発していません。早めの対処が本当に大切だと実感しています。」(東京都・Kさん) 「うちのコッカーは生まれつき耳のトラブルが多く、一時は手術も検討しました。でも、獣医さんの指導で正しい耳掃除の方法を覚え、抗真菌薬での治療を続けた結果、今では普通の生活を送れています。諦めなくて本当に良かったです。」(神奈川県・Mさん)
参考文献
- Nardoni S, et al. Malassezia, mites and bacteria in the external ear canal of dogs and cats with otitis externa. ResearchGate. 2014. Available from: https://www.researchgate.net/publication/267310451_Malassezia_mites_and_bacteria_in_the_external_ear_canal_of_dogs_and_cats_with_otitis_externa
- Koch SN. The Challenge of Chronic Otitis in Dogs: From Diagnosis to Treatment. Today's Veterinary Practice. 2022. Available from: https://todaysveterinarypractice.com/dermatology/the-challenge-chronic-otitis-dogs-diagnosis-treatment/
- Bond R, Morris DO, Guillot J, et al. Biology, diagnosis and treatment of Malassezia dermatitis in dogs and cats: Clinical Consensus Guidelines of the World Association for Veterinary Dermatology. Vet Dermatol. 2020;31(1):28-74. DOI: 10.1111/vde.12809
- Cabañes FJ. Diagnosis of Malassezia dermatitis and otitis in dogs and cats, is it just a matter of counting? Rev Iberoam Micol. 2021;38:3-4. Available from: https://www.elsevier.es/es-revista-revista-iberoamericana-micologia-290-articulo-diagnosis-malassezia-dermatitis-otitis-in-S113014062030022X
- Boone JM, et al. Malassezia otitis unresponsive to primary care: outcome in 59 dogs. Vet Dermatol. 2021. PMID: 34189776
- Guillot J, Bond R. Malassezia Yeasts in Veterinary Dermatology: An Updated Overview. Front Cell Infect Microbiol. 2020;10:79. DOI: 10.3389/fcimb.2020.00079
本記事はイヌラバ博士が編集した一般情報であり、個別の診断や治療に替わるものではありません。
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
当サイトおよび執筆者は、本記事の情報利用によって生じたいかなる損害についても一切の責任を負いかねます。
