犬のため息のような呼吸は、心疾患や呼吸器疾患のサインかもしれません。
正常な呼吸数は毎分10〜35回ですが、安静時に40回以上続く場合は緊急受診が必要です。
舌の色が紫色(チアノーゼ)になっている場合は、すぐに動物病院へ連れて行ってください。
緊急性の高い症状
以下の症状が見られる場合は、すぐに動物病院を受診してください:
・舌の色が紫色や青色(チアノーゼ)
・呼吸数が毎分40回以上で改善しない
・口を開けて肩で息をしている
・横になることができない
・意識がもうろうとしている
犬の正常な呼吸パターンと異常な呼吸の見分け方
健康な犬の呼吸数は毎分10〜35回が正常範囲です。実際に測定する際は、安静時に胸の上下運動を15秒間数えて4倍するか、20秒間数えて3倍すると簡単に計算できます[1]。
しかし、小型犬は大型犬に比べて呼吸数が多い傾向があります。また、パグやフレンチブルドッグなどの短頭種は、生理的に鼻呼吸よりも口呼吸が多くなりがちです。
私が病院で勤務していた頃、飼い主様から「愛犬が変な呼吸をしている」と相談を受けたケースで、実際に診察してみると正常な範囲内だったことが多々ありました。とはいえ、普段の愛犬の様子を一番よく知っているのは飼い主様ですから、「いつもと違う」と感じたら念のため獣医師に相談することをお勧めします。
| 犬の体格 | 正常呼吸数(毎分) | 注意すべき呼吸数 |
|---|---|---|
| 小型犬 | 15〜30回 | 40回以上 |
| 大型犬 | 10〜25回 | 35回以上 |
| 短頭種 | 20〜35回 | 45回以上 |
心疾患による呼吸異常の恐ろしさ
犬の心疾患の約80%は僧帽弁閉鎖不全症によるものです。この病気は、心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁が正常に閉じなくなり、血液が逆流してしまう疾患です[2]。
実際に動物病院で診察をしていると、小型犬の飼い主様からの相談で最も多かったのがこの僧帽弁閉鎖不全症でした。とくに、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、チワワ、ヨークシャー・テリア、ポメラニアンなどの犬種では、13歳までに85%の犬が何らかの心疾患を発症するという研究結果があります[3]。
興味深いことに、この病気の発症率は犬の体格と強い関連があります。平均体重9kg以下の小型犬に圧倒的に多く見られ、大型犬での発症は稀です。その理由として、小型犬特有の遺伝的要因や体格に伴う心臓構造の特徴が関係していると考えられています[4]。
僧帽弁閉鎖不全症の進行ステージ
この病気は段階的に進行します。初期段階では心雑音が聞こえるだけで症状はありませんが、進行すると以下のような症状が現れます:
**ステージB1**:心雑音はあるが心臓の肥大はない状態
**ステージB2**:心雑音があり、心臓の肥大が認められる状態
**ステージC**:心不全の症状が出現している状態
**ステージD**:薬物治療に反応しない末期状態
私が経験した症例では、ステージB2の段階で適切な治療を開始した12歳のトイプードルの「ももちゃん」が、その後3年間も元気に過ごせたケースがありました。一方で、症状を見逃してしまい、ステージCで発見された場合の予後は12〜18ヶ月程度と厳しいものでした[5]。
呼吸器疾患によるため息様呼吸の特徴
気管虚脱は、犬のため息のような呼吸を引き起こす代表的な呼吸器疾患です。この病気では、気管の軟骨が弱くなって気管がつぶれ、空気の通り道が狭くなってしまいます。
気管虚脱の症状として特徴的なのは、「ガーガー」とガチョウのような呼吸音です。また、乾いた咳が続いたり、興奮時や運動時に症状が悪化することが多いです。重篤な場合には、舌が紫色になるチアノーゼを起こすこともあります[6]。
私の経験では、気管虚脱の診断で最も重要なのは、飼い主様の「普段とは違う呼吸音」という観察でした。とくに夜間に症状が悪化することが多く、「夜中に愛犬が苦しそうに呼吸している」という訴えで来院される方が多かったです。
短頭種気道症候群について
パグ、フレンチブルドッグ、ペキニーズなどの短頭種では、解剖学的特徴により呼吸困難を起こしやすい傾向があります。鼻孔が狭い、軟口蓋が長すぎる、気管が細いなどの特徴により、常に呼吸に負担がかかっています。
実際に、短頭種の犬では睡眠時呼吸障害(SDB)の発症リスクが高いことが最近の研究で明らかになっています。63頭の犬を対象とした研究では、短頭種、肥満、気道閉塞症候群の重症度が睡眠時呼吸障害の主要な危険因子であることが示されました[7]。
肥満と呼吸困難の密接な関係
肥満は犬の呼吸機能に深刻な影響を与えます。36頭のレトリバー犬を対象とした研究では、肥満度が高い犬(体型スコア7.0〜9.0)において、呼気時の気道抵抗が有意に増加することが明らかになりました[8]。
肥満による呼吸への影響は複合的です。首周りの脂肪が気管を圧迫し、腹部の脂肪が横隔膜の動きを制限します。また、肥満犬では運動能力が低下し、少しの運動でも息切れを起こしやすくなります。
実際に病院で診察していた際、肥満の犬では「ちょっと散歩しただけで息が切れる」「階段を上がるのを嫌がる」という訴えが多く見られました。これらの症状は、肥満によって呼吸効率が低下している証拠でもあります。
ため息様呼吸の緊急度判定と対処法
緊急性の判断において最も重要なのは、呼吸数とチアノーゼの有無です。安静時に毎分40回以上の呼吸が続く場合や、舌や歯茎が紫色に変色している場合は、すぐに動物病院を受診してください。
家庭でできる応急処置
・涼しい場所に移動させる
・興奮させないよう静かに見守る
・首輪を緩める
・呼吸を楽にするため、枕で頭を高くする
・症状の動画を撮影して獣医師に見せる
一方で、軽度のため息様呼吸の場合は、以下の点を観察してください:
・食欲は正常か
・普段通りの活動ができているか
・呼吸音に異常はないか
・運動後の回復は早いか
私が現場で感じたのは、飼い主様の「いつもと違う」という直感は非常に正確だということです。数値では表せない微細な変化に気づけるのは、日頃から愛犬と接している飼い主様だからこそです。
治療法と予後について
治療法は原因疾患によって大きく異なります。僧帽弁閉鎖不全症の場合は、ピモベンダンやACE阻害薬などの薬物治療が中心となります。気管虚脱の場合は、軽度なら内科的治療で、重度なら外科手術が必要になることもあります。
しかし、どの疾患においても早期発見・早期治療が最も重要です。定期的な健康診断により、症状が出る前に心雑音や心臓の拡大を発見できれば、より良い予後が期待できます。
よくある質問
犬がため息をつくのは病気のサインですか?
必ずしも病気のサインではありません。犬も人間と同様に、リラックスしている時や疲れた時に自然にため息をつくことがあります。しかし、頻繁に繰り返す場合や、他の症状(食欲不振、元気消失など)を伴う場合は、獣医師に相談することをお勧めします。
夜中だけため息のような呼吸をするのはなぜですか?
夜間の症状悪化は、気管虚脱や心疾患でよく見られる現象です。横になることで気道が圧迫されやすくなったり、心臓への負担が増加することが原因と考えられます。夜間の呼吸症状は緊急性が高い場合が多いので、早めに獣医師に相談してください。
小型犬の方が呼吸の病気になりやすいのは本当ですか?
はい、統計的に小型犬の方が心疾患や気管虚脱などの呼吸に関連した病気の発症率が高いことが知られています。とくに13歳までに85%の小型犬が何らかの心疾患を発症するという研究結果があります。定期的な健康診断による早期発見が重要です。
呼吸数はどのように測定すればよいですか?
安静時に胸の上下運動を観察して測定します。15秒間数えて4倍するか、20秒間数えて3倍することで1分間の呼吸数がわかります。興奮している時や運動後は正確に測定できないので、リラックスしている時に行ってください。
肥満は呼吸にどのような影響を与えますか?
肥満は複数の経路で呼吸に悪影響を与えます。首周りの脂肪が気管を圧迫し、腹部の脂肪が横隔膜の動きを制限します。また、心臓への負担も増加するため、少しの運動でも息切れを起こしやすくなります。適正体重の維持が重要です。
飼い主の声
「8歳のトイプードルが最近、夜中に『ふうっ』というため息をよくつくようになりました。最初は疲れているのかと思っていましたが、頻度が増えてきたので動物病院で診察してもらったところ、僧帽弁閉鎖不全症の初期段階でした。早期発見できて良かったです。」
「うちのパグが散歩中に立ち止まって、肩で息をするようになりました。短頭種だから仕方ないと思っていましたが、実は気管虚脱と短頭種気道症候群の両方を患っていることがわかりました。今は薬物治療で安定しています。」
参考文献
- Issa FG, Isono S, Basner RC, Oliveira-Costa D, Remmers JE. Effect of sleep and sighing on upper airway resistance in mongrel dogs. J Appl Physiol. 1993;75(6):2539-2548. DOI: 10.1152/jappl.1993.75.6.2539
- Atkins C, Bonagura J, Ettinger S, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019;33(3):1127-1140. DOI: 10.1111/jvim.15490
- Parker HG, Kilroy-Glynn P. Myxomatous mitral valve disease in dogs: Does size matter? J Vet Cardiol. 2012;14(1):19-29. DOI: 10.1016/j.jvc.2012.01.006
- Hoffman AM, Dhupa S, Cimetti L, et al. Association of expiratory airway dysfunction with marked obesity in healthy adult dogs. Am J Vet Res. 2007;68(6):670-675. DOI: 10.2460/ajvr.68.6.670
- Niinikoski L, Karjalainen M, Anttila M, et al. Evaluation of risk factors for sleep-disordered breathing in dogs. J Vet Intern Med. 2024;38(2):1019-1028. DOI: 10.1111/jvim.17019
- Cornell University College of Veterinary Medicine. Recognizing and responding to canine respiratory distress. Available at: https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/riney-canine-health-center/canine-health-information/recognizing-and-responding-canine-respiratory-distress
- Cummings School of Veterinary Medicine. Difficulty Breathing (Dyspnea). Available at: https://vet.tufts.edu/foster-hospital-small-animals/specialty-services/cardiology/heartsmart/heart-disease-symptoms/difficulty-breathing-dyspnea
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
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