トイレ回数急増の主な原因:頻尿(膀胱炎・結石)と多飲多尿(糖尿病・腎臓病・クッシング症候群)
危険サイン:1日50ml/kg以上の尿量、少量頻回排尿、血尿、排尿困難
対処法:飲水制限は厳禁。24時間の飲水量測定後、速やかに動物病院へ
突然のトイレ回数増加に隠れる愛犬の叫び
朝5時、まだ薄暗い中でソワソワする愛犬の姿。「また?」と思いながら玄関へ向かう飼い主様の表情を、私は動物病院で何度も見てきました。
ふと思い返してみてください。昨日も、一昨日も、同じような光景が続いていませんか?
健康な犬の排尿回数は1日2〜3回程度が一般的です。しかし、これが5回、10回と増えてきたら…それは愛犬からの重要なSOSサインかもしれません。
2019年8月、私が勤めていた東京都内の動物病院に、12歳のミニチュアダックスフンドが運び込まれました。飼い主の田中さん(仮名)は「最近やたらとトイレに行きたがって…」と心配そうに話していました。検査の結果、腎臓病が進行していることが判明。もっと早く気づいていれば、と悔やむ田中さんの姿は今でも忘れられません。
⚠️ 緊急受診が必要な症状
・排尿姿勢をとるが尿が出ない
・血尿が見られる
・排尿時に痛がって鳴く
・1日に10回以上トイレに行く
頻尿と多尿、その決定的な違いを見極める
実は「トイレ回数が増えた」という症状には、大きく分けて2つのパターンが存在します。これを見誤ると、適切な治療が遅れる可能性があるのです。
頻尿:少量を何度も排泄する状態
さて、あなたの愛犬はトイレで踏ん張っているのに、ほんの数滴しか出ていないことはありませんか?これが「頻尿」の典型的な症状です。
私が経験した症例では、膀胱炎を患った5歳のトイプードルが、1時間に3〜4回もトイレに行きたがりました。飼い主の山田さん(仮名)は「散歩中も10メートルごとに立ち止まって…」と困惑していました。
頻尿の主な原因は膀胱から尿道にかけての異常です。細菌感染による膀胱炎が最も多く、[1]約14%の犬が生涯に一度は経験するという統計があります。
多尿:大量の尿を頻繁に排泄する状態
一方で、「ペットシーツがビショビショになるほど大量の尿が出る」という場合は多尿です。これは腎臓や内分泌系の問題を示唆しています。
とはいえ、[2]犬の正常な尿量は体重1kgあたり20〜40mlとされています。体重10kgの中型犬なら、1日200〜400mlが標準的。これを大きく超える場合、つまり体重1kgあたり50ml以上になると「多尿」と診断されます。
簡単にできる尿量チェック法
- ペットシーツを交換する前後で重さを測定
- 増加した重さ(g)≒ 尿量(ml)
- 24時間分を記録して合計
- 体重で割って1kgあたりの量を計算
なぜ急にトイレが近くなる?病気別の仕組みと症状
それでも、なぜ愛犬のトイレ回数が急に増えるのでしょうか。実のところ、その背景にはさまざまな病気が潜んでいる可能性があります。
膀胱炎・尿路結石による頻尿のメカニズム
膀胱炎は細菌感染により膀胱内壁が炎症を起こす病気です。炎症により膀胱が刺激され、尿が少量しか溜まっていなくても尿意を感じてしまいます。
2021年春、私が診察した8歳のシーズーは、膀胱結石により頻尿を呈していました。レントゲンで確認すると、直径5mmほどの結石が3個も…。飼い主の佐藤さん(仮名)は「最近水をあまり飲まなくて」と話していました。水分不足は結石形成の大きなリスク要因なのです。
糖尿病による多飲多尿の連鎖
糖尿病では血糖値が上昇し、腎臓での糖の再吸収能力を超えると尿中に糖が漏れ出します。すると浸透圧の関係で水分も一緒に排出され、多尿となります。[3]
結果的に脱水傾向となり、のどが渇いて大量に水を飲む。この悪循環が多飲多尿という症状を引き起こすのです。
腎臓病が引き起こす尿濃縮能の低下
腎臓の重要な機能の一つに「尿の濃縮」があります。健康な腎臓は、体に必要な水分を再吸収し、老廃物を濃縮して少量の濃い尿として排出します。
しかし腎臓病が進行すると、この濃縮能力が低下。薄い尿を大量に出すことでしか老廃物を排出できなくなってしまうのです。[4]
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の複雑な影響
さらに、中高齢犬で注意すべきなのがクッシング症候群です。副腎から過剰に分泌されるコルチゾールが、脳の水分調節中枢を抑制し、腎臓でのホルモン作用も妨げることで多飲多尿を引き起こします。
興味深いことに、この病気では他にも特徴的な症状が現れます。お腹がぽっこり膨らむ、皮膚が薄くなる、左右対称の脱毛など。2020年に診察した11歳のビーグルは、これらすべての症状を呈していました。
見逃してはいけない!年齢別・犬種別のリスク要因
実は、トイレ回数の異常は年齢や犬種によってもリスクが異なります。
子犬期(〜1歳)の注意点
子犬の排尿回数は成犬より多く、1日4〜6回程度が一般的です。ただし、先天的な尿路奇形や若年性腎疾患の可能性も。生後6ヶ月を過ぎても極端に回数が多い場合は要注意です。
成犬期(1〜7歳)のリスク
この時期は細菌性膀胱炎が最も多く発生します。特に避妊手術をしていないメス犬は、[5]発情期後に子宮蓄膿症のリスクが高まり、多飲多尿の症状が現れることがあります。
ところで、私が2018年に出会った4歳のゴールデンレトリバーは、ストレスによる心因性多飲を発症していました。引っ越し後から症状が始まり、新しい環境に慣れると共に改善しました。
シニア期(7歳〜)の複合的リスク
7歳を過ぎると、腎臓病、糖尿病、クッシング症候群、膀胱腫瘍など、さまざまな病気のリスクが急激に上昇します。
特に小型犬では腎臓病、大型犬では膀胱腫瘍の発生率が高い傾向にあります。定期的な健康診断の重要性は、いくら強調してもし過ぎることはありません。
自宅でできる!正確な観察と記録の方法
では、愛犬のトイレ回数の変化に気づいたら、まず何をすべきでしょうか?
24時間飲水量測定の実践方法
- 朝7時に水入れを空にする
- 計量カップで正確に500mlの水を入れる
- 水を追加する際は必ず計量して記録
- 翌朝7時に残量を測定
- (与えた総量 - 残量)÷ 体重(kg) = 体重1kgあたりの飲水量
なお、[6]犬で体重1kgあたり90〜100ml以上、猫で50ml以上の飲水は「多飲」と判断されます。
排尿記録のつけ方
トイレの回数だけでなく、以下の点も記録しましょう:
・時刻
・尿量(多い/普通/少ない/ごく少量)
・尿の色(薄い/普通/濃い/血尿)
・排尿時の様子(スムーズ/時間がかかる/痛がる)
私の経験上、この記録は診断に非常に役立ちます。2022年に来院したパグの飼い主さんは、1週間分の詳細な記録を持参してくれました。おかげで早期に間質性膀胱炎の診断につながりました。
動物病院受診時の持ち物チェックリスト
□ 24時間飲水量の測定結果
□ 排尿記録(最低3日分)
□ 可能なら新鮮な尿サンプル
□ 現在服用中の薬・サプリメント
□ 最近の食事内容の変更点
絶対にやってはいけない!間違った対処法
残念ながら、善意からの間違った対処が症状を悪化させることがあります。
飲水制限は命に関わる危険行為
「水を飲みすぎるから制限しよう」これは絶対にNGです!多飲多尿の多くは、体が必要として水を飲んでいる状態。制限すると急激な脱水や腎不全を引き起こす可能性があります。
2017年夏、飲水制限により急性腎不全で運ばれてきたマルチーズを忘れることができません。幸い一命は取り留めましたが、入院治療に2週間を要しました。
市販薬の安易な使用
人間用の膀胱炎薬を与える飼い主様もいますが、犬には有害な成分が含まれている場合があります。必ず獣医師の診断を受けてから治療を開始しましょう。
様子見の落とし穴
「そのうち治るだろう」という楽観は禁物です。特に排尿困難(尿が出ない状態)は、24〜48時間で命に関わる緊急事態に発展します。
治療成功への道のり:飼い主様ができること
診断がついた後も、飼い主様の協力なくして治療の成功はありません。
投薬管理の工夫
薬を飲ませるのが苦手な愛犬も多いでしょう。私がよくお勧めする方法は:
・チーズやバターで包む
・専用の投薬補助ゼリーを使用
・フードに混ぜる(薬によっては不可)
・褒めながら、おやつと一緒に
実際、投薬を嫌がっていたチワワの飼い主様が、「薬の時間=おやつタイム」という条件付けに成功し、自ら薬を欲しがるようになった例もあります。
食事療法の重要性
多くの泌尿器疾患では、療法食が治療の要となります。しかし「食べてくれない」という相談もよく受けます。
そんな時は:
・従来のフードと混ぜて徐々に切り替え
・少し温めて香りを立たせる
・ウェットタイプも試してみる
ただし、療法食は獣医師の指導のもとで使用することが大切です。
環境整備で再発予防
・新鮮な水を複数箇所に設置
・トイレを清潔に保つ(1日2回以上の掃除)
・ストレス要因の除去
・適度な運動で免疫力アップ
ところで、2019年に膀胱炎を繰り返していたポメラニアンは、水飲み場を3箇所に増やしたところ、飲水量が増えて再発がなくなりました。些細な工夫が大きな効果を生むこともあるのです。
まとめ:愛犬の健康を守るために今すぐできること
トイレ回数の急増は、愛犬からの重要なメッセージです。頻尿なのか多尿なのか、その違いを見極めることから始まります。
15年間の経験から断言できるのは、早期発見・早期治療が愛犬の予後を大きく左右するということ。「おかしいな」と思ったら、迷わず動物病院へ。
そして何より、日頃から愛犬の様子をよく観察し、小さな変化も見逃さない。それが、かけがえのない家族を守る第一歩なのです。
最後に、あなたの愛犬が今日も元気にしっぽを振ってくれることを、心から願っています。もし心配なことがあれば、一人で悩まず専門家に相談してくださいね。
よくある質問
Q1. 散歩中に何度もマーキングするのは病気ですか?
A. マーキング行動は正常な犬の本能的行動です。特に去勢していないオス犬では顕著に見られます。ただし、家の中でも頻繁に少量ずつ排尿する場合や、メス犬で急にマーキング様の行動が始まった場合は、膀胱炎などの可能性があるため受診をお勧めします。
Q2. 夜中に何度もトイレに起きるようになりました。年齢のせいでしょうか?
A. 確かに加齢により膀胱の容量が減少することはありますが、急激な変化は病的な可能性が高いです。特に多飲多尿を伴う場合は、腎臓病や糖尿病、クッシング症候群などの内分泌疾患を疑います。夜間頻尿は生活の質を大きく低下させるため、早めの受診をお勧めします。
Q3. トイレの回数は正常ですが、1回の量が多くなりました。問題ありますか?
A. 排尿回数が正常でも、1回の尿量が増加している場合は多尿の可能性があります。24時間の総尿量を測定し、体重1kgあたり50ml以上であれば異常です。初期の腎臓病や内分泌疾患では、このような変化から始まることがあるため、念のため検査を受けることをお勧めします。
Q4. 膀胱炎は完治しますか?再発を防ぐ方法はありますか?
A. 細菌性膀胱炎は適切な抗生物質治療により完治可能です。ただし、約30%の症例で再発が見られます。再発予防には、十分な飲水量の確保、定期的な排尿、陰部の清潔保持、ストレス管理が重要です。また、基礎疾患(結石、腫瘍、内分泌疾患など)がある場合は、その治療も必要です。
Q5. 療法食を食べてくれません。普通のフードではダメですか?
A. 療法食は特定の疾患に対して栄養学的に設計されており、治療の重要な一部です。ただし、全く食べない場合は栄養失調のリスクもあるため、獣医師と相談して代替案を検討しましょう。段階的な切り替え、フードの温め、ウェットタイプへの変更、トッピングの使用など、様々な工夫があります。場合によっては、別の療法食への変更も考慮されます。
飼い主の声
「うちのミニチュアダックス(14歳)が急にトイレの回数が増えて心配でした。イヌラバ博士のアドバイス通り24時間の飲水量を測ったら、体重の2倍以上飲んでいることが判明。すぐに病院へ行き、初期の腎臓病と診断されました。早期発見できて本当に良かったです。今は療法食と投薬で元気に過ごしています。」(東京都・Kさん)
「トイプードル(8歳)が1時間に何度もトイレに行くようになり、この記事を読んで膀胱炎を疑いました。案の定、細菌性膀胱炎でした。飲水制限をしなくて本当に良かった!今は水飲み場を3箇所に増やし、再発もなく元気です。的確な情報をありがとうございました。」(神奈川県・Yさん)
参考文献
- 千葉市中央区くるり動物病院. 犬の膀胱炎|原因と症状、治療法を獣医師が解説. 2024. URL: https://kururi-ah.com/blog/犬の膀胱炎/
- 渡辺動物病院. 多飲多尿について. 静岡県島田市. URL: https://www.wahpes.co.jp/column.asp?cno=127
- PS保険. 犬の多飲多尿の原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説. 2024年8月9日更新. URL: https://pshoken.co.jp/note_dog/dog_symptom/case008.html
- Nabity, M. B., et al. SDMA assay validation, stability, and evaluation as a marker for early detection of chronic kidney disease in dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine 2015;29:1036-1044.
- van Vonderen IK, et al. Polyuria and polydipsia and disturbed vasopressin release in 2 dogs with secondary polycythemia. J Vet Intern Med. 1997 Sep-Oct;11(5):300-3. PMID: 9348498
- こうべどうぶつクリニック. 多飲多尿について. 愛知県刈谷市. URL: http://www.koube-ac.com/sick/?id=27
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
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