犬が目を開けづらそうにしている主な原因:角膜潰瘍(最多)、結膜炎、眼瞼炎、ドライアイなど
緊急度:高い(特に短頭種)。24時間以内の受診推奨
対処法:エリザベスカラー装着、目薬は獣医師の指示のみ、こすらせない
朝起きたら愛犬がずっと片目を細めて、なんだか辛そう…。15年間動物病院で働いていた私も、「シュッ」と目を細める音が聞こえるたびに胸が締め付けられました。
実は、犬がまぶたを開けづらそうにする症状は、決して珍しいものではありません。とはいえ、その背後には角膜の傷や感染症など、放置すると失明に至る可能性のある病気が潜んでいることも。
今回は、なぜ愛犬が目を開けづらそうにするのか、どんな病気が考えられるのか、そしてあなたが今すぐできる対処法について、詳しくお話しします。
痛みで目が開けられない!最も多い原因は角膜潰瘍
角膜潰瘍は、犬の眼科疾患の中でも特に痛みが強い病気です。角膜とは、黒目の表面を覆う透明な膜のこと。ここに傷がつくと、まばたきするたびに激痛が走ります。
2017年にイギリスで行われた大規模調査によると、犬全体の約0.8%が角膜潰瘍を発症していました[1]。さらに驚くべきことに、パグでは5.42%、ボクサーでは4.98%もの犬が発症。短頭種(鼻ぺちゃ犬)は、他の犬種と比べて20倍も角膜潰瘍になりやすいことが分かっています[2]。
角膜潰瘍の典型的な症状
2013年、千葉県の動物病院で忘れられない症例がありました。9歳のパグ、モモちゃん。飼い主さんは「4日前から目に水ぶくれみたいなものができて…」と慌てていました。診察すると、角膜が白く濁り、中央部が溶けかけている重度の潰瘍でした。
⚠️ 緊急受診が必要な症状
・目を完全に閉じたまま開けられない
・目の表面に白い濁りや血管が見える
・大量の目やにと涙が止まらない
・前足で頻繁に目をこする
実のところ、角膜潰瘍の痛みは人間の「目にゴミが入った時の100倍」と表現されることもあります。なぜなら角膜には無数の知覚神経が分布しているから。ちょっとした傷でも、瞬きのたびに激痛が走るのです。
まぶたの炎症「眼瞼炎」も見逃せない原因
眼瞼炎は、まぶた自体が腫れて赤くなる病気です。人間でいう「ものもらい」に似た状態ですが、犬の場合はもっと広範囲に炎症が起こることが多いのです。
ある日の午後診察。「うちの子、朝から目をシパシパさせて…」と来院したのは、7歳のシーズー、ココちゃんでした。診察台の上で、まぶたは真っ赤に腫れ上がり、涙で顔の毛がベトベトに。
眼瞼炎の原因は様々です:
- 細菌感染(ブドウ球菌が最多)
- アレルギー反応(花粉、ハウスダスト)
- 寄生虫(ニキビダニ症)
- 自己免疫疾患
それでも、適切な治療を行えば多くの場合1〜2週間で改善します。ただし、慢性化すると治りにくくなるため、早期発見・早期治療が鍵となります。
意外と多い!結膜炎による目の不快感
結膜炎は、白目の部分が赤く充血する病気です。人間でも「はやり目」として知られていますが、犬の場合はもっと複雑な原因が絡んでいることが多いのです。
結膜は外部環境と常に接しているため、刺激を受けやすい部位。細菌やウイルス、寄生虫との接触も起こりやすく、犬の結膜炎を引き起こす最も多い原因となっています[3]。
こんな時は結膜炎を疑って
2015年の春、花粉が飛び交う季節。来院したフレンチブルドッグのブンタくん(5歳)は、両目が真っ赤に充血していました。「散歩から帰ってきたら急に…」と飼い主さん。
診察の結果、花粉によるアレルギー性結膜炎でした。実は短頭種は目が大きく飛び出しているため、アレルゲンに触れやすく、結膜炎になりやすいのです。
結膜炎の見分け方
・白目が赤く充血している
・黄色や緑色の目やにが出る
・まぶたの裏側が腫れている
・涙の量が増える
ドライアイ(乾性角結膜炎)による目の痛み
ドライアイは、涙の量が減ることで角膜が乾燥し、炎症を起こす病気です。正常な犬の涙液量は、シルマー涙液試験で15mm/分以上。これを下回ると、目の表面を保護する涙の膜が不十分になります。
忘れもしない2016年の夏。13歳のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、メリーちゃんが来院しました。「最近、目をショボショボさせて開けづらそう」という主訴でした。
涙液検査をすると、なんと右目3mm/分、左目5mm/分。重度のドライアイでした。角膜には細かい傷が無数にあり、まばたきのたびに痛みが走る状態。すぐに人工涙液と免疫抑制剤の点眼を開始しました。
今すぐできる!自宅での応急処置と注意点
愛犬が目を開けづらそうにしていたら、まず「触らせない」ことが最重要です。
ふと思い出すのは、2018年の失敗例。トイプードルのマロンちゃん(8歳)の飼い主さんが、「目薬をさしたら余計悪くなった」と慌てて来院。聞けば、人間用の目薬を使ったとのこと。
実は、人間用の目薬には犬に有害な成分が含まれていることがあります。特にステロイド系の目薬は、角膜潰瘍を悪化させる可能性があるため要注意です。
自宅でできる応急処置
- エリザベスカラーの装着:目をこすらせないことが最優先
- 目の周りを清潔に:ぬるま湯で湿らせたガーゼで優しく拭く
- 明るい光を避ける:カーテンを閉めて薄暗い環境を作る
- すぐに動物病院へ連絡:症状を詳しく伝える
よくある質問
Q: 目薬をさすのを嫌がるのですが、どうしたらいいですか?
A: まず、犬を座らせて後ろから抱きかかえるように固定します。片手で顎を軽く持ち上げ、もう片方の手で上まぶたを軽く引き上げながら点眼します。終わったらすぐにご褒美をあげましょう。どうしても難しい場合は、動物病院で点眼指導を受けることをおすすめします。
Q: 片目だけ症状がある場合と両目の場合で違いはありますか?
A: 片目だけの場合は外傷や異物が原因のことが多く、両目の場合はアレルギーや全身性疾患の可能性があります。ただし、片目の症状でも放置すると両目に広がることがあるため、どちらの場合も早期受診が大切です。
Q: 市販の犬用目薬を使ってもいいですか?
A: 症状の原因によって必要な薬が異なるため、自己判断での使用は避けてください。特に角膜潰瘍がある場合、不適切な目薬で悪化することがあります。必ず獣医師の診断を受けてから使用しましょう。
Q: 治療費はどのくらいかかりますか?
A: 初診料と検査(フルオレセイン染色など)で5,000〜10,000円程度、軽度の結膜炎なら点眼薬代を含めて10,000〜15,000円程度です。ただし、角膜潰瘍が重度の場合は手術が必要になることもあり、50,000〜200,000円かかることもあります。
Q: 予防する方法はありますか?
A: 散歩時は草むらや枝に顔を突っ込ませない、車の窓から顔を出させない、定期的に目の周りの毛をカットする、アレルギーがある場合は原因物質を避けるなどが予防につながります。特に短頭種は目が出ているため、より注意が必要です。
飼い主の声
「うちのパグが急に目を開けなくなって、夜間救急に駆け込みました。角膜潰瘍と診断されて、1ヶ月間毎日3回の点眼を続けました。今では完治しましたが、早く気づいて本当に良かったです。あの時すぐに病院に行かなかったらと思うとゾッとします。」(東京都・40代女性・パグ7歳)
「シーズーを飼っていますが、春になると必ず目が赤くなります。アレルギー性結膜炎と診断されて、今は花粉の時期だけ予防的に点眼しています。獣医さんから教わった目の周りの毛のカット方法も役立っています。」(神奈川県・50代男性・シーズー10歳)
参考文献
- O'Neill DG, Lee MM, Brodbelt DC, Church DB, Sanchez RF. Corneal ulcerative disease in dogs under primary veterinary care in England: epidemiology and clinical management. Canine Genet Epidemiol. 2017;4:5. doi: 10.1186/s40575-017-0045-5. Available at: https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-017-0045-5
- Packer RM, Hendricks A, Burn CC. Impact of facial conformation on canine health: corneal ulceration. PLoS One. 2015;10(5):e0123827. doi: 10.1371/journal.pone.0123827. PMID: 25969983. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25969983/
- PS保険. 犬の結膜炎の症状と原因、治療法について. 2023. Available at: https://pshoken.co.jp/note_dog/disease_dog/case117.html
- Iwashita H, Wakaiki S, Kazama Y, Saito A. Breed prevalence of canine ulcerative keratitis according to depth of corneal involvement. Vet Ophthalmol. 2020;23(5):849-855. doi: 10.1111/vop.12808. PMID: 32716142. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32716142/
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
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