結論:犬が頭を振るだけでは、てんかんとは言い切れません。耳の痛みやかゆみでもよく見られるしぐさです。
結論:ただし、呼びかけに反応しない、よだれが増える、顔の一部だけぴくつく、数分で繰り返すなら、発作の可能性を急いで見極める必要があります。
結論:迷ったら動画を撮り、左右どちらに振るか、意識があるか、歩けるかを記録してその日のうちに獣医師へ相談しましょう。
「耳がかゆいだけならいいのに、これっててんかんですか?」。六月の蒸した夕方、東京都内の動物病院で何度も受けた相談です。私イヌラバ博士も、頭をぶんぶん振る犬を見るたびに、耳の炎症なのか、発作の入口なのか、まず観察の順番を整えていました。見た目が似ているからこそ、不安は大きくなります。そこで今回は、犬が頭を振るときに“てんかんを疑う場面”と“耳トラブル寄りの場面”を、飼い主さんが家で見分けやすい形で整理します。
頭を振るだけでは、てんかんとは決められません
てんかん発作は、脳の異常な電気活動で起こる短い発作性の出来事です[1]。IVETF の整理では、犬の発作はけいれんだけでなく、顔のぴくつき、まばたき、よだれ、落ち着きのなさなどの焦点性サインとして始まることがあります[1]。一方で、外耳炎や中耳炎でも頭振り、耳を掻く、嫌なにおい、片側だけの痛みがよく出ます[4][5]。ここがややこしいところでしょう。
実のところ、見分けの第一歩は「意識」と「耳そのものの違和感」を分けて観察することです。兵庫県の6歳の柴犬「コハクくん」は、夜になると急に頭を左右へ小刻みに振るので、飼い主さんは発作を疑いました。けれど診察では耳道の赤みが強く、耳に触れた瞬間に体を引く反応がありました。耳由来の痛みだったのです。逆に、福岡県の4歳のボーダーコリー「ナツちゃん」は、頭を振った直後にぼんやり立ち止まり、口元がもぐもぐ動きました。こちらは焦点性発作が疑われ、動画が診断の大きな助けになりました。
てんかん寄りの動きは「短く反復し、意識が揺れる」
発作らしい頭振りでは、耳を気にしているというより、同じ動きが急に始まり、数十秒から数分で切れる形になりやすいです[1]。呼びかけに反応しにくい、視線が合わない、よだれが増える、顔やまぶただけがぴくぴくする、終わった後にふらつく。こんな流れなら、耳のかゆみだけでは説明しにくいかもしれません。Cornell も、5分を超えて続く発作は status epilepticus として救急対応が必要だと案内しています[3]。
耳トラブル寄りの動きは「痛みとかゆみの手がかり」がつきます
耳の炎症では、頭振りに加えて、耳のにおい、赤み、黒っぽい耳垢、片耳だけ触られるのを嫌がる様子が出やすいです[4]。中耳まで及ぶと、頭を傾ける、痛がる、歩き方が不安定になることもあります[5]。ここでの失敗談を一つ。横浜市の11歳のミニチュアダックス「レオくん」は、飼い主さんが綿棒で耳掃除を続けた結果、痛みが強くなり、頭振りがさらに激しくなってしまいました。良かれと思った手当てが悪化につながること、現場では少なくありませんでした。
この組み合わせなら、てんかんや重い神経症状を急いで確認
- 頭振りと同時に呼びかけへの反応が鈍い
- 口をくちゃくちゃする、よだれが増える、顔だけぴくつく
- 数分以内に同じ動きが何度も続く
- ふらつき、倒れる、ぼんやりが発作後にも残る
- 5分以上続く、または短時間で連続する
逆に、耳を触ると嫌がる、においがする、黒い耳垢がつく、片耳だけ強く掻くなら、耳の病気が第一候補です。けれど両者が重なることもあるので、決めつけは禁物です。
| 観察点 | てんかん寄り | 耳トラブル寄り |
|---|---|---|
| 反応 | 呼びかけに反応しにくい、視線が泳ぐ[1][3] | 名前を呼ぶと振り向くことが多い |
| 動き方 | 急に始まり、同じ動きが短く反復する[1] | 掻く、頭をこする、触られると嫌がる[4][5] |
| いっしょに出る症状 | よだれ、顔のぴくつき、発作後のぼんやり[1][3] | 耳の赤み、におい、耳垢、片側の痛み[4] |
| 緊急度 | 5分超、連発、倒れるなら救急[3] | 強い痛みや傾きがあれば当日受診[5] |
最初の90秒で見るべき順番
頭を振る動きが始まった時、家族はすぐ耳をのぞきたくなります。けれど、発作の可能性を少しでも考えるなら、最初に見るのは耳の中ではなく、意識と安全です。犬の周囲にぶつかりそうな家具や階段がないかを確認し、口の中へ手を入れず、時間を測ります。名前を呼んで目が合うか、体を自分で支えられるか、よだれや排尿がないかを見ます。
次に、動きが止まった後の戻り方を見ます。すぐ普段通りに歩けるのか、ぼんやり立ち尽くすのか、同じ方向へ頭を傾けるのか、壁にぶつかりそうになるのか。発作では、動きそのものよりも、前後の様子が手がかりになることがあります。耳のかゆみでは、意識は保たれ、終わった後も耳を掻いたり、頭を家具へこすったりする流れが続きやすいです。
動画は、頭だけのアップより全身が入る距離で撮ります。顔のぴくつき、足元、歩き方、呼びかけへの反応が映ると、診察で役立ちます。ただし、5分を超える、連続する、倒れる、呼吸が苦しそうな場合は、撮影より救急連絡を優先してください。
耳を確認する時にやってはいけないこと
耳トラブルが疑わしい時でも、綿棒を奥へ入れる、耳を強く引っ張る、人用の薬を入れる、痛がる耳を何度も触る対応は避けます。炎症がある耳は少しの刺激でも痛みが強くなり、頭振りが増えることがあります。耳の中を完全に見る必要はありません。外側の赤み、におい、耳垢の色、左右差、触られた時の反応を記録するだけで十分です。
耳掃除後に頭振りが増えた場合は、掃除が足りなかったのではなく、刺激や痛みで悪化している可能性があります。洗浄液の種類、使った日、頭振りが増えた時間、耳垢の色をメモします。家で何度も洗い直すより、病院で耳道の状態を見てもらう方が安全です。
耳が原因でも、頭の傾き、ふらつき、目の揺れ、吐き気がある場合は、中耳や内耳の問題も考えます。皮膚のかゆみの延長として放置せず、当日中の相談を検討してください。耳と神経は見た目が重なる場面があるため、家庭で決めつけないことが大切です。
発作後メモは短くても診断に効く
発作らしい動きを疑った時、完璧な記録を作ろうとすると続きません。必要なのは、日時、続いた時間、意識、動き、終わった後の様子、食事や薬、直前の出来事です。「16時20分、30秒ほど頭を小刻みに振る。名前に反応弱い。終わった後2分ぼんやり。排尿なし」。この程度で十分です。
初回の受診では、血液検査や神経学的な確認、必要に応じた追加検査が検討されることがあります。過去の動画、発生間隔、年齢、同じ家族内での気づきがあると、判断材料が増えます。逆に「たぶん発作」「たぶん耳」と言葉だけで伝えると、見落としが起きやすくなります。
家族間で判断が割れる時は、動画とメモを共通の事実にします。怖がる人、軽く見る人、耳掃除をしたがる人が混在すると、対応がぶれます。危険サインがある時は救急、耳サインが強い時は当日相談、短く一度だけなら記録して早めに相談。この基準を家族でそろえておきましょう。
再発した時のために家の安全を先に整える
頭振りや発作らしい動きが再び起きるかもしれない時は、原因が確定する前でも安全環境を作れます。階段の前、ソファの端、家具の角、滑る床は、ふらついた犬がぶつかりやすい場所です。寝床周りに厚めのマットを敷き、夜間は足元灯をつけ、段差の近くで眠らせないようにします。これは発作の診断を待つ間にもできる予防です。
留守番中に起きる可能性が心配な犬では、カメラより先に安全な部屋を考えます。高い場所へ上がれない、コードを引っかけない、倒れた時に周囲へぶつからない場所です。水皿もひっくり返りにくい器にして、滑る床にはマットを置きます。発作か耳か分からない段階でも、転倒と衝突を減らす環境は無駄になりません。
また、薬やサプリを自己判断で始めないことも大切です。発作が心配だからと人用の薬を使う、耳がかゆそうだから残っていた点耳薬を入れる、といった対応は診断を難しくし、悪化につながることがあります。記録を残し、安全を確保し、必要な検査につなぐ。この順番を守りましょう。
多頭飼いの場合は、発作らしい動きがある犬をほかの犬から静かに離します。周りの犬が心配して近づいたり、興奮して吠えたりすると、本人がぶつかったり、回復後に驚いてトラブルになることがあります。留守番中に不安がある家庭では、普段から安全な一室を決め、薬の名前、持病、かかりつけ病院、夜間救急の連絡先を家族が同じ場所で見られるようにしておくと、いざという時に動きやすくなります。
受診の目安は「動画が撮れるか」ではなく「今の危険度」です
まず守りたいのは安全です。発作が疑われる間は、口の中に手を入れない、階段や家具の角から離す、時間を測る。この三つを優先してください[3]。耳の問題が濃そうでも、綿棒や刺激の強い洗浄液は避けた方が無難です[4]。動画は撮れれば有用ですが、撮れなかったから手遅れという話ではありません。
受診時に役立つのは、1. いつ始まったか、2. 左右どちらに振ったか、3. 呼んだとき反応したか、4. 直後に歩けたか、の四点です。IVETF の診断提案でも、発作の記述と動画記録、年齢、神経学的異常の有無が見極めの土台になります[2]。初発が1歳未満や7歳超なら、構造的な脳疾患や代謝性の問題も視野に入るため、先延ばしは勧めません[2]。
ふだんの備えで「耳」も「発作」も見逃しにくくなります
週に一度、耳の温度差、におい、耳垢の色を軽く見る。異変がある日はスマートフォンで短い動画を残す。家の床が滑りやすいならマットを敷く。こうした地味な準備が、診察室での判断速度を大きく変えます。愛犬が頭を振った瞬間、「てんかんかも」と慌てるのは自然です。でも、耳か、神経か、両方か。そこを落ち着いて切り分けられる飼い主さんは強いのです。
よくある質問
Q. 犬が頭を振るだけでも、てんかんの可能性はありますか?
A. ありますが、それだけでは判断できません。意識の変化、よだれ、顔のぴくつき、発作後のぼんやりが伴うかどうかを一緒に見てください。
Q. 発作かどうか迷うとき、まず何をすればいいですか?
A. 周囲の危険物をどけ、時間を測り、呼びかけへの反応を確認します。余裕があれば動画を撮ってください。5分を超える、または連続するなら救急です。
Q. 耳掃除をしたら頭振りが増えました。様子見でいいですか?
A. 刺激で悪化している可能性があります。赤みや痛みがある耳へ綿棒を入れるのは避け、早めに診てもらう方が安全です。
Q. 若い犬なら、てんかんを疑いやすいですか?
A. 1〜5歳で初発なら特発性てんかんが候補に入りやすい一方、1歳未満や7歳超では別の原因も考えます。年齢だけで決めず、全身状態と神経学的所見で判断します。
Q. 頭を振った後にけろっとしていても受診した方がいいですか?
A. 初めての症状なら一度は相談を勧めます。とくに同じ動きが繰り返す、動画で違和感が残る、耳の赤みや痛みがある場合は受診してください。
飼い主の声
「耳のかゆみだと思っていたら、動画を見た先生に『これは発作の始まり方に似ています』と言われました。撮っておいた20秒が決め手でした」(兵庫県・40代)
「逆に、てんかんだと怖がっていたら外耳炎でした。自己判断で掃除を続けなくて本当によかったです。頭振りの見方が変わりました」(神奈川県・50代)
まとめ
犬が頭を振ると、耳の不調でも、発作でも、飼い主さんの心は一気にざわつきます。だからこそ、反応があるか、耳の痛みがあるか、動きが短く反復するか、この三本柱で見てください。危険サインがあれば、その日のうちに受診へ。動画と短いメモがあれば、診断はずっと前に進みます。迷った瞬間こそ、落ち着いた観察が愛犬を守る近道になります。
本記事はイヌラバ博士が監修した一般情報であり、個別の診断や治療に替わるものではありません。
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
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