結論:犬についたマダニを指やピンセットで無理に引き抜くのはやめてください。口器が皮膚に残って化膿したり、つぶすと病原体が逆流したりします。動物病院で取ってもらうのが基本です[5]。
なぜ重大か:マダニはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)を媒介します。日本での報告では、発症した犬の致死率は約25%、猫は約60%。発症した犬・猫から看病した人へうつった例もあります[1]。
守る順番:①動物病院で処方される予防・駆除薬を定期的に、②散歩後に全身チェック、③深い草むらを避ける。この3つで愛犬と家族をまとめて守れます。
まず手を止めて。引き抜くと、もっとやっかいになる
結論から言いますね。マダニは、自分で引き抜かないこと。これが大原則です。吸血中のマダニは、口からセメントのような物質を出し、皮膚にがっちり固定されています[5]。だから引っ張っても簡単には外れません。力ずくでいくと、頭にあたる口器(こうき)だけがちぎれ、皮膚の中に取り残されてしまうのです。
残った口器は、やがて化膿やしこりの火種になります。2018年のあの朝、私は「絶対に抜かず、そのまま病院へ」とだけお願いしました。来院後、獣医師が専用の器具で根元から丁寧に除去。傷も残らず済みました。いっぽうで、こんなケースもあります。
2019年6月、埼玉県の動物病院で診察補助をしていたときのこと。柴犬のソラくん(当時5歳)の首に、500円玉ほどのしこり。飼い主さんは前の週、ついていたマダニを自分でつまんで取ったそうです。残った口器のまわりが化膿し、膿瘍になっていました。「あのとき、抜かなければ」。肩を落とすお父さんの横顔を、今も覚えています。あなたには、同じ後悔をしてほしくありません。
⚠️ マダニを見つけたら、やってはいけない4つ
- 指でつまんで引き抜く/素手でつぶす
- ピンセットでふくらんだ胴体をつかんで引っ張る
- ライターの火・アルコール・ワセリンで“いぶり出す”
- 取れたマダニを素手でちぎる・握りつぶす
つぶすのも、なぜ厳禁か。マダニの体を圧迫すると、病原体を含む体液が、かえって犬の体内へ逆流しかねないからです。さらに、つぶれた体液が飼い主さんの手指につけば、人への入り口にもなり得ます。正解は拍子抜けするほど単純。「ついている場所をスマホで撮って、そのまま動物病院へ」。それだけで十分なのです。
“布団のダニ”とは別物──マダニとノミの見分け方
マダニは、布団や食品につくチリダニとはまったくの別種です。体長は数ミリ。肉眼ではっきり見える吸血性のダニで、草むらや藪の葉先で動物を待ち伏せします[5]。さて、ややこしいのが、吸血が進むと体が小豆大までパンパンに膨らむこと。だから「急にイボができた」と勘違いされがちなんですね。
ノミとの区別は、実はそんなに難しくありません。ノミは小さく、ピョンと跳ねて素早く逃げます。それに対してマダニは、皮膚に張りついてほとんど動かない。表にまとめておきましょう。
| 見分けポイント | マダニ | ノミ |
|---|---|---|
| 動き | 皮膚に固着しほぼ動かない | 跳ねて素早く動く |
| 大きさ | 数mm/吸血後は小豆大 | 1〜3mm前後 |
| つく場所 | 毛の薄い部位に1〜数匹 | 全身。黒い糞(ノミの落とし物)も残る |
| 取り方 | 自分で取らず動物病院へ | 駆除薬・シャンプーで対応 |
散歩から帰ったら、毛が薄くやわらかい場所を、なでながら確認してみてください。見落としやすいのは、次のあたりです。
マダニに狙われやすい“弱点”の場所
- 目・耳のまわり、口元
- 首すじ・胸元
- 内股・おなか
- 指の間(肉球のすき間)
- しっぽの付け根
本当に怖いのは“咬まれたあと”──運ばれてくる病気
マダニそのものより、媒介する感染症のほうが、ずっと深刻です。代表的なものを押さえましょう。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)──人にもうつる
SFTSは、SFTSウイルスを持つマダニに咬まれて起こる感染症です[2]。日本では2013年に初めて確認され、近年は人の患者が年間100例を超える年もあります[2]。犬や猫も発症し、その致死率は決して低くありません。厚生労働省のQ&Aによれば、日本での報告で犬は約25%、猫は約60%とされています[1]。
もっとも見過ごせないのは、ここ。SFTSを発症した犬・猫の血液や唾液など体液との接触で、看病した人へ感染した例が報告されている点です[1]。つまりマダニ対策は、愛犬のためだけのものではありません。あなたと、家族を守る対策でもあるのです。マダニに咬まれてから発症までの潜伏期は、おおむね6日〜2週間[2]。咬まれた“あと”の体調変化こそ、見張るべきサインなのです。
バベシア症──じわじわ進む貧血
バベシアは、マダニが運ぶ血液寄生の原虫です。赤血球に入り込んで内側から壊し、発熱と血管内溶血を経て、進行性の貧血やヘモグロビン尿、黄疸を引き起こします[4]。重症化すれば、命に関わります。
2021年の初夏、千葉県の病院に運ばれてきたゴールデンレトリバーのモモちゃん(7歳)。「数日前から元気がなく、歯ぐきが白い」と来院しました。河川敷の散歩が日課だったそうです。重い貧血で、そのまま入院。点滴と投薬で、なんとか山を越えました。元気がない・歯ぐきや舌が白っぽい・尿の色が濃い(赤褐色)。このサインが出たら、様子見はせず、すぐ動物病院へ向かってください。
動物病院での除去と、受診を急ぐ目安
病院なら、口器を残さない除去に加えて、寄生の程度に応じた駆除薬の投与、必要なら感染症の検査まで、一度に対応できます。次のどれかに当てはまるなら、迷っている時間がもったいない。連れて行ってください。
こんなときは受診を
- マダニが固着して取れない/自分で取って口器が残ったかもしれない
- 除去後、数日〜2週間ほどの間に発熱・元気消失・食欲低下・嘔吐が出た
- 歯ぐきや舌が白っぽい、尿の色がいつもより濃い
- マダニが何匹もついている
ひとつ、混同しやすい点を。飼い主さん自身がマダニに咬まれたとき、あるいは素手で触ったあとに発熱などの不調が出たときは、行くのは動物病院ではありません。人の医療機関を受診し、「マダニに接触した」と必ず伝えてください[3]。ここ、取り違えないようにしましょう。
今日から始める予防──完璧じゃなくていい
1. まずは動物病院の予防・駆除薬
もっとも確実なのは、動物病院で処方される予防・駆除薬を、定期的に使うことです[4]。皮膚に垂らすスポットタイプ、おやつのように食べる経口タイプがあり、多くはノミ予防も兼ねます。投与の期間は、地域や暮らし方で変わるもの。通年か、春〜晩秋までか。自己判断せず、かかりつけの獣医師に決めてもらいましょう。
2. コース取りと、“帰宅後30秒”のチェック
草むら・藪・けもの道は、マダニの待ち伏せポイント。すべて避けるのは無理でも、深い草へ顔から突っ込ませない。それだけで、ぐっと違います。そして帰宅後、さきほどの弱点ポイントを、なでながら確認する習慣を。マダニは飛び移ってすぐ吸血を始めるわけではないので、早く見つけるほど、固着前にぽろっと取れる可能性が上がります。
3. 飼い主さん自身も“長袖・長ズボン”
草地に入るときは、肌の露出を減らすのが基本です。長袖・長ズボン、足元もしっかり[3]。レジャーシートや上着にマダニがついて、室内に持ち込まれることもあります。屋外で軽くはたいてから帰ると、なお安心でしょう。
よくある質問
Q. マダニが取れたあと、皮膚に黒い点だけ残っています。様子を見ていい?
A. 口器が皮膚に残っている可能性があります。放置すると化膿やしこりの原因になるため、自分でほじり出そうとせず、動物病院で処置を受けてください。
Q. ほとんど室内飼いでも、マダニ予防は必要?
A. 毎日の散歩で草むらの近くを通るなら、おすすめします。短時間の外出でもマダニは飛び移りますし、飼い主さんの衣類について室内に持ち込まれることもあります。生活環境に合ったプランを、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
Q. マダニとノミはどう見分ければいい?
A. ノミは小さく素早く動き、ピョンと跳ねます。マダニは皮膚に固着してほとんど動かず、吸血が進むと丸く膨らむのが特徴です。皮膚にしっかりくっついて取れない粒があれば、マダニと考えて対処してください。
Q. 予防薬はいつからいつまで投与すればいい?
A. マダニの活動ピークは春〜秋ですが、温暖な地域では冬でも活動するため、通年予防がすすめられることもあります。お住まいの地域とライフスタイル(キャンプや山歩きの頻度など)を踏まえ、獣医師と相談して決めるのが確実です。
Q. 市販のマダニ取りピンセット(ティックリムーバー)を使ってもいい?
A. 使い慣れていれば選択肢になりますが、顔まわりや目の近くなど難しい部位、初めての場合は無理をしないこと。中途半端に引っ張ると口器が残るため、不安があれば動物病院に任せるほうが安全です。
飼い主の声
「河川敷の散歩のあと、息子が愛犬の耳の裏にイボを見つけました。ネットで“自分で取らない”と知り、そのまま病院へ。先生に『よく抜かずに来たね』と言われて、ほっとしました。今は月1の予防薬を続けています。」(埼玉県・40代女性)
「キャンプ好きの我が家。以前、帰宅後に妻がマダニを素手でつぶしてしまい、あとから“人にうつる病気がある”と知って青ざめました。幸い無事でしたが、それ以来、予防薬と帰宅後チェックは、我が家の絶対ルールです。」(神奈川県・30代男性)
「見つけたら病院、ふだんは薬」。たった2つで守れる
マダニ、と聞くと身構えてしまうかもしれません。とはいえ、覚えることはたった2つ。見つけたら自分で取らず病院へ、ふだんは予防薬で寄せつけない。これだけで、愛犬も家族も、ぐっと安全に近づきます。
初夏の朝、青々とした土手を駆けていく愛犬のうしろ姿は、何ものにも代えがたいものですよね。その時間をこれからも守るために、今日の帰り道、まずは耳のうしろをそっとなでてみませんか。いつもと違う小さなふくらみに、誰よりも早く気づけるのは、いちばんそばにいるあなたです。気がかりがあれば、ためらわず、かかりつけの動物病院に相談してくださいね。
本記事はイヌラバ博士が監修した一般情報であり、個別の診断や治療に替わるものではありません。愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
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