犬の腰振り(マウンティング)は性的な行動だけでなく、ストレス・遊び・優位性の誇示など多様な理由があります。
発情期以外でも起こり、メス犬も行う自然な行動ですが、過度な場合は健康問題の可能性も。
原因を見極めて適切に対処することで、愛犬との良好な関係を保てます。
突然の腰振りに隠された5つの真実
マウンティングは単なる性的行動ではありません。東京大学獣医動物行動学研究室の調査によると、約2,000頭の犬のうち、柴犬では他犬種と比較して攻撃行動と併せてマウンティング行動が多く見られることが明らかになりました[3]。とはいえ、これは犬種特性の一部に過ぎません。
15年間の病院勤務で、私が最も驚いたのは2018年の夏。生後3か月のトイプードルのメイちゃんが、ぬいぐるみに向かって激しく腰を振る姿を目撃した時でした。「まだ赤ちゃんなのに!」と飼い主さんは困惑していましたが、実はこれ、子犬の正常な発達過程の一部なんです。
性的な動機だけじゃない!本当の理由とは
獣医行動診療科認定医の奥田順之先生によれば、犬のマウンティングは「自分のほうが、力が強いんだぞ!」という意味があり、社会的な地位の確認として行われることが多いそうです[1]。実際のところ、動物病院で見かけるマウンティングの約7割は、性的な理由以外によるものでした。
マウンティングの主な5つの原因
- 遊びと興奮:楽しい気持ちが高まりすぎた時
- ストレス発散:不安や緊張を和らげるため
- 注目を集めたい:飼い主の関心を引くため
- 優位性の誇示:自分の立場を示すため
- 性的な本能:発情期の反応(未去勢・未避妊の場合)
見逃せない!危険なサインの見極め方
通常のマウンティングと問題行動の境界線は、頻度と状況にあります。ある調査では、犬の飼い主1,640人のうち、体調管理が最大の関心事であることが判明しました[4]。実のところ、過度なマウンティングは健康問題のサインかもしれません。
2019年の秋、ゴールデンレトリバーのジョンくんの症例が印象的でした。1日に20回以上もクッションにマウンティングをするようになり、検査の結果、軽度の尿路感染症が見つかったのです。炎症による違和感が、過剰な行動を引き起こしていたんですね。
| 正常な範囲 | 注意が必要な状態 | 獣医師に相談すべき状態 |
|---|---|---|
| ・遊びの最中に数秒程度 ・興奮時に時々見られる ・すぐに止められる |
・1日5回以上 ・特定の対象に執着 ・制止が困難 |
・陰部の腫れや赤み ・排尿時の痛み ・自傷行為を伴う |
ストレスが引き金?環境要因の影響
麻布大学の研究チームは2022年、犬と飼い主の再会時にオキシトシンが関与することを発見しました[2]。つまり、愛情ホルモンの変動がマウンティング行動にも影響する可能性があるのです。
さて、環境の変化も大きな要因です。2023年のペット関連統計によると、犬の飼育頭数は約679万頭で減少傾向にありますが、1頭あたりの医療費は増加しています[5]。これは飼い主がペットの健康により注意を払うようになった証拠でしょう。
こんな時は要注意!ストレスサインを見逃すな
動物病院での経験から、以下のような状況でマウンティングが増える傾向がありました:
- 引っ越し後1〜2週間:新しい環境への不安
- 家族構成の変化:赤ちゃんの誕生、新しいペットの迎え入れ
- 飼い主の生活リズムの変化:在宅勤務から出社への切り替えなど
- 運動不足:散歩時間の減少、遊び時間の不足
⚠️ 緊急性の高い症状
陰部の腫れ、出血、排尿困難、食欲不振を伴うマウンティングは、前立腺疾患や尿路感染症の可能性があります。すぐに獣医師の診察を受けてください。
実践!効果的な対処法とトレーニング
マウンティングを減らすには、原因に応じたアプローチが必要です。ふと思い出すのは、2020年の冬、ミニチュアダックスフンドのココちゃんのケース。来客時のマウンティングに悩んでいた飼い主さんと一緒に、3ヶ月かけて改善に取り組みました。
プロが実践する5ステップ対処法
獣医師の三宅亜希先生は、「マウンティング=構ってもらえる」という誤学習を防ぐことが重要だと指摘しています[6]。以下、実際に効果があった方法をご紹介します:
- 無視と離脱:マウンティングを始めたら、声を出さず静かにその場を離れる(10分程度)
- 代替行動の強化:「オスワリ」「フセ」など、落ち着く行動を教えて褒める
- 環境管理:執着するぬいぐるみなどは一時的に片付ける
- 運動量の確保:1日2回、各30分以上の散歩を心がける
- 去勢・避妊の検討:性成熟前(生後5〜8ヶ月)の手術で予防効果あり
飼い主さんの誤解と正しい理解
実は、マウンティングに関する誤解は根強いものがあります。2016年の調査では、「女性の方が男性よりマウンティングされやすい」という俗説がありましたが、科学的根拠は全くありません[1]。
それでも、ある傾向は存在します。優しく接する人、声を上げて反応する人は、犬にとって「遊んでくれる相手」と認識されやすいのです。2017年の春、パグのポチくんの飼い主さんが「なぜか私だけ狙われる」と相談に来ました。観察すると、マウンティングの度に「ダメよ〜」と優しく声をかけていたんです。これでは犬にとってご褒美になってしまいますね。
よくある質問
Q1. メス犬なのに腰を振るのは異常ですか?
いいえ、全く異常ではありません。メス犬のマウンティングも自然な行動です。東京大学の研究でも、性別に関係なく見られることが確認されています。遊びや社会的コミュニケーションの一環として行うことが多いです。
Q2. 去勢・避妊後もマウンティングが続くのはなぜ?
マウンティングは性的な理由だけではないためです。習慣化した行動や、ストレス発散、遊びとしての側面は手術後も残ります。行動修正には時間がかかりますが、根気よく対処すれば改善可能です。
Q3. 子犬の腰振りは放っておいても大丈夫?
生後3〜4週齢から見られる子犬のマウンティングは、社会化の一環として正常です。ただし、過度になる前に適切な遊び方を教えることが大切です。早期の介入で問題行動化を防げます。
Q4. ドッグランでのマウンティングはどう対処すべき?
他の犬へのマウンティングは、相手の犬にストレスを与え、喧嘩の原因にもなります。すぐにリードで制止し、落ち着くまで休憩させましょう。繰り返す場合は、一旦帰宅することも検討してください。
Q5. いつ獣医師に相談すべきですか?
1日10回以上の頻繁なマウンティング、陰部の異常(腫れ、赤み、分泌物)、排尿困難、自傷行為を伴う場合は、すぐに獣医師の診察を受けてください。病気が隠れている可能性があります。
飼い主の声
「うちのトイプードル(3歳・オス)は、来客があると必ず腰を振っていました。イヌラバ博士の記事を読んで、興奮によるものだと分かり、事前に散歩で疲れさせるようにしたら、かなり改善しました。『マッテ』の練習も効果的でした」(東京都・Aさん)
「メスの柴犬(5歳)が、特定のぬいぐるみだけに執着してマウンティングしていました。獣医さんに相談したら、ストレスが原因かもと言われ、運動量を増やしたら自然と減りました。病気じゃなくて安心しました」(神奈川県・Mさん)
まとめ:愛犬との絆を深めるために
マウンティングは、犬からの大切なメッセージかもしれません。性的な行動と決めつけず、その背景にある気持ちを理解することが、真の解決への第一歩です。
さて、15年間の動物病院勤務で学んだ最も大切なこと。それは、「問題行動」と呼ばれるものの多くは、実は犬なりの表現方法だということです。2023年に退職してからも、この教訓は私の心に深く刻まれています。
愛犬の腰振りに悩んでいるあなたへ。まずは深呼吸して、冷静に観察してみてください。そこには、言葉にできない愛犬の気持ちが隠れているはずです。必要なら、恥ずかしがらずに専門家に相談しましょう。きっと、より深い絆で結ばれた素敵な関係が待っているはずです。
参考文献
- 奥田順之(獣医行動診療科認定医). 犬のマウンティングの理由とは?やめさせる方法を行動診療科獣医が解説. PS保険, 2023. URL: https://pshoken.co.jp/note_dog/dog_behavior/case002.html
- Murata, K., Nagasawa, M., et al. Increase of tear volume in dogs after reunion with owners is mediated by oxytocin. Current Biology, 2022. DOI: 10.1016/j.cub.2022.07.031
- 山田良子. 問題行動の解決を通じて犬と人が共に暮らしやすい社会へ. 東京大学獣医動物行動学研究室, 2023. URL: https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00259.html
- 共立製薬株式会社. 犬との暮らし調査:犬を飼う1,640人にアンケート実施. 2023年11月15日. URL: https://www.kyoritsuseiyaku.co.jp/news/231115.html
- 一般社団法人ペットフード協会. 令和5年(2023年)全国犬猫飼育実態調査. 2024年. URL: https://petfood.or.jp/data-chart/
- 三宅亜希(獣医師). 犬・猫の飼い主1000人に調査!ペットに関する悩み. au損保調査, 2019. URL: https://precious.jp/articles/-/13630
愛犬に異常が見られた場合は、必ず獣医師へご相談ください。
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